種明かしとか世界情勢とか


「ははあ、その血はそういう理由だったんですか」


 先程から気になっていたミアちゃんの血の理由ですが、普通に聞いたらあっさり教えてもらえました。



「この神殿ってそういう仕組みだったんですねぇ」


「うん、分かったのは最近なんだけどね」



 なんのことはありません。

 先程の奥の部屋に祭壇があり、そこに生贄の血を捧げれば召喚魔法が起動するのだとか。お偉い学者さんたちが神殿の壁に彫られていた文字を解読し、先月くらいに内容が分かったそうな。


 前回私がこちらに来た時は、例のあの魔族のやたらと頭の悪いボクっ娘の……ええと名前は失念してしまいましたが、あの方が小鬼ゴブリンを少なからず殺したそうですし、それで神殿が起動したのでしょう。

 一定量の血が溜まった時点で勝手に発動するお手軽&静音仕様なので、ミアちゃん自身も私が声をかけるまで起動したことに気付いていなかったようですが。


 それにしても、今回といい前回といい、対象がいつどこに出現するか分からないってかなり欠陥システムっぽいんですが、昔の人は大丈夫だったんでしょうか?

 ここの神殿も古いだけあってあちこちヒビが入ったり劣化しているようですし、もしかしたら魔法のシステム的な部分にバグでも出てるのかもしれませんね。





 まあ、そのあたりの事情は一旦脇に置いておくとしまして、私が突然こちらに来たのはミアちゃんがそうして生贄をアレしたから。解読が済んでからというもの、ほぼ毎日自宅から日参して血をアレしていたそうです。


 生贄にしたって、もちろん人間じゃありません。

 羊や豚や鶏などの家畜の血です。


 最初は街のお肉屋さんやら屠殺場やらで貰った血をバケツに汲んで運んでいたそうなのですが、バケツだと運べる量はさほど多くありません。

 彼女の家がある街からこの神殿まではかなりの距離がありますし、途中で貰ってきた血をこぼしてしまったこともあったそうで。


 そこで近頃はミアちゃんが自分で家畜の処理方法を覚え、買ってきた家畜を先程の祭壇部屋で解体していたのだとか。処理をしたお肉はしばらく熟成させてからお屋敷のご飯になるそうです。あの家の食事は美味でしたし、またお相伴に預かりたいところですね。


 今日もイキのいい豚さんを二頭ばかり担いで運び、さっきの部屋で刃物を使ってアレしたところだったらしく、



「なるほど、そういう理由なら全然おかしくは……」



 いえ、どうでしょうね?

 冷静に考えてみると、そこまでやるかという気もします。そこまでしても私に会いたかったというのは、非常に嬉しいのですが。



「最近は上手に首を落とせるようになったの。骨の隙間を通すように刃を入れると、魔法を使ってなくても簡単に切れるんだよ」


「そ、それはすごいですね……」



 ニコニコと大変良い笑顔で話すミアちゃんが少し怖いです。

 理由があったにせよ、普通そこまでするかというと……まあ、この件に関しては深追いしないほうが良さそうです。下手に追求すると友人の心の闇的なアレを暴いてしまいそうですし。








 ◆◆◆








「おや?」


 神殿を出て地上に上がってみると、まだ太陽はほぼ真上の位置。

 ミアちゃんに聞くと、まだ時間はお昼を少し過ぎた頃だとか。予想はしていましたが、日本とこちらとでは、多少なりとも時差があるようです。


 二つの世界の時間差については、街への道すがら色々と話してみました。

 アトラス山の神殿での一件から私にとっては二ヶ月程度の時間だったのですが、こちらの時間では約半年が経過していたとか。

 しかし、以前はこちらの約一週間が日本での一日相当でしたし、時間の比率は一定ではないのかもしれません。まあ、確証のない推測ですが。




「そういえば、以前のあの魔族の方々とはどうしました? なんかゴタゴタしてた気がするんですが」


「あ、それならとっくに片付いてるよ」



 ……なんですと?



「オヤツの増量と引き換えに、クロエちゃんが魔族の族長さんのいる隠れ里の場所を教えてくれてね」



 あ、そういえばそんな名前でしたね、あのボクっ娘。



「それで他の街のお父様たちが魔法使いさんと一緒に夜襲をかけて制圧したの。わたしは留守番だったから聞いただけなんだけど、族長さんが寝てるところに四人がかりで関節技をかけたらしいよ」



 ミアちゃん曰く、族長さんもマトモに戦えば並の魔法使いなど歯牙にもかけない実力があったそうなのですが、逆に言えばマトモに戦わせなければ割とあっさりだったようです。


 というか、流石に魔族の族長さんとやらに同情しますよ。せっかく壮大な野望を抱いて暗躍していたっぽいのに、味方の頭が悪すぎたせいでそんな結末を迎えてしまうとは。



「その族長さんって、クロエちゃんたちのお父さんなんだけどね」


「ああ、そういえば、そんな話を聞いたような……」



 訂正。娘さんの教育を疎かにした自業自得ですね、これは。


 それにしても、不在の間に全部片付いてしまうとは、私ってつくづくボス戦に縁がありませんねぇ。いえ、そんな縁は欲しくないのでそれで結構なのですが。



「じゃあ、ここいらの情勢はもう安定したんですかね?」



 ともあれ、平和なのは良いことです。

 今回は帰る手段にも最初から心当たりがありますし、学校もしばらくお休みです。

 前回は何かとドタバタしていましたから、今回こそはのんびり異世界観光と洒落込むのも悪くないかも……、



「それが、最近は発掘した神殿の扱いで東の獣人の人たちとちょっとモメてるみたいなの。お父様たちが言うには、なんだか戦争になりそうなんだって。具体的には来週くらいから」



 ……などと甘いことを考えていたのですが、そうは問屋が卸しませんでした。

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