異世界、再び


 ご存知の方はお久しぶり、初めての方ははじめまして。

 私の名前は三条リコと申します。

 異世界に行ったと思ったらワケも分からぬ間に帰ってきたりした珍妙な経歴を持つ以外は、特にこれといった変哲もない一般女子中学生です。



「あ~……、深夜のコーラとポテチは犯罪的ですねぇ」


 異世界から日本に戻ってから二ヵ月後。

 つい先日に夏休みに突入した事もあり、私は毎日ダラダラと自堕落な快適ライフを満喫していました。


 いえ、あれからしばらくの間は私もいつ再召喚されてもいいように気を張っていたんですが、そんな緊張なんていつまでも保ちませんて。

 結局、近頃は日付が変わる時間までクソゲーのレビューサイトを徘徊してゲラゲラ笑いながら、新作のポテチを肴にコーラを飲むような生活に逆戻りしていました。


 学校がある時は流石に自重しますが、夏休みならば誰にはばかる事なく明け方に寝て昼過ぎに起きるような生活ができます。

 両親はまたいつものように仕事で家を空けているので、文句を言う人は……先週従姉妹の姉さんが遊びに来た時に言われましたけど、基本的にはフリーダムですよ。


 まあ、そのうち呼ばれるにしてもいつになるかは分かりませんし、それまでは気楽にストレスフリーな生活を送っていたほうがいいですよね、きっと。



「おっと、コーラが切れちゃいましたね」



 ペットボトルがいつの間にかカラになっていました。

 台所に行って冷蔵庫を開けるも買い置きはなし。

 牛乳ならば常備している物が何本かありますが、ポテチ、もしくはピザにはコーラを合わせるべしと日本国憲法にも明記されています(記載されていないとしたら落丁か何かでしょうね)。

 ここは妥協せずに買いにいくべきでしょう。

 私は怠惰に過ごす為の労力は惜しまないタイプのJCなのです。


 それに今食べている新作ポテチの『納豆ハニーマスタードレモン味』という、どこをターゲットにしたのかさっぱり分からないキワモノが意外にコーラと相性抜群なのですよ。

 こういう期間限定系はすぐに無くなってしまうので、すでにある程度まとめ買いしてあります。ネットでも酷評ばかりでしたし、残念ながらレギュラー化は望めないでしょう。きっと来月にはもう消えているハズです。


 そういえばあれ以来、結構牛乳を飲むようになったんですよ。

 元々そんなに牛乳は飲んでいなかったのですが、異世界にいる時は朝昼晩と水代わりに飲み続けていたせいで習慣になってしまったみたいです。それでもタテにもヨコにも身体は大きくなってくれませんが。

 そうそう、牛乳といえば牛のカトリーヌは向こうで元気にしてますかねぇ。

 最後に見た時には呑気にエサを食べていましたし、息災だと良いのですが。


 ……カトリーヌのことを思い出したらお腹が空いてきました。

 明日はちょうどスーパーの特売日ですし、がっつりステーキか焼肉でも食べますかね。 







 ◆◆◆ 







 さて、コーラが欲しくなった私は、部屋着がわりのジャージ姿で近くのコンビニまで行く事にしました。スマホやお財布やその他諸々を愛用のエコバッグに放り込んで、いざ出陣。


 中学生の私がこんな時間に外を出歩いたら、お巡りさんに補導されてしまうのではとお思いかもしれません。

 ですが、私が住んでいるマンションの一階テナントに入っているコンビニに行くだけなので所要時間は五分以内、補導のリスクは最小で済みます。


 仮にお巡りさんに見つかった場合でも、コーラやお菓子ではなく文房具や電球などを買いにきたと言って真面目な学生を装えば見逃してもらいやすくなったりもします。

 上のマンションに住んでいると追加で言えばほぼ確実です。あまり多用できないのが難点ですが、一種の生活の知恵ってヤツですね、ふふふ。

 


 エレベーターで一階まで降りてコンビニに入り、まずは雑誌棚をチェック。

 先程日付が変わって月曜に入ったところなので、ジャ●プとヤ●マガが並んでいればガッツリ立ち読みをしていこうと思ったのですが、残念ながらまだ並んでいませんでした。

 仕方が無いので、ドリンク棚から二リットルサイズのコーラを二本と、ついでにお菓子棚で適当なスナック類やチョコ菓子なんかを選択。

 ついでにレジ前で気になったフライドチキンとアメリカンドッグも買ったら総額二千円近くになってしまいましたが、まあ仕方ありません。悠々自適の自堕落ライフを過ごす為の必要経費と思えば安いものです。





「くっ、二リットルを二本は腕に効きますね!?」



 無事に会計を終え、後はエレベーターで自宅のあるフロアに戻るだけなのですが、流石に二リットルのペットボトル二本は強敵です。上腕二頭筋のあたりにヒシヒシとダメージが入るのを感じます。たかが四キロ強ではありますが、私の貧弱さをナメてもらっては困ります。

 

 こういう時に魔法で筋力を強化すれば便利なのでしょうが、迂闊に使うわけにもいきません。いくら伸縮力に優れた信頼と実績の国産ジャージといえども、身長二メートル強、体重百キロ以上もの体格には耐え切れないでしょう。私にストリーキングの趣味はないのです。

 最初から魔法を使った状態で大きな服を着るという手もありますが、強化魔法だと顔の造形は変わらないので、知り合いに見られたら一発で私だとバレてしまうんですよね。ヘルメットや目出し帽で隠すのは別な意味でヤバそうですし。


 まあエレベーターのおかげで実質の移動距離は往復でも精々百メートルかそこらです。

 いくら荷物があるとはいえ、その程度ならばかろうじて大丈夫。あくまで、かろうじてなのが我ながら情けないですが、反省して身体を鍛えようなどとは思いません。


 昼間であればマンションの住民と乗り合わせる事もありますが、深夜なのでエレベーターには私一人です。我が家は無駄に高い階なもので、大勢と乗り合わせると小刻みに停止して地味にストレスなのですが、今回はそのような事もありません。


 私は「ポーン」という目的階への到着を報せる音がエレベーター内に響くのを聞きながら、マンションの廊下へと歩み出し、



「おや?」



 気付いた時には、どこかで見た覚えのある地下神殿の広間に立っていたのです。


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