遺跡の探索


 余計なお荷物が増えてしまったので調査は明朝までで切り上げ、日の出と共に出発する事になりました。一人増えても街までもつ程度の食料はありますが、捕虜の見張りと遺跡の調査を平行して行うには単純に人手が足りません。


 それに早く引き上げないと、クロウさん以外の魔族がやってきたら面倒な事になるかもしれません。今はおとなしくしている彼ですが、もし騙されている事に気付いたら暴れたりしそうですし。



 そこで明朝までの時間を有効活用すべく、遺跡に入って調査をしているのですが、



「おお~、これは見事な物ですねぇ」



 地下にあった例の神殿に似ていますが、こちらの遺跡もかなりの見応えがあります。山の斜面を凹状にくり貫いた跡の、周囲から発見されにくい場所にあるのですが狭苦しい感じはありません。


 地下にあった神殿には光るコケが付着して照明がわりになっていましたが、こちらは壁に埋め込んである水晶のような宝石がその役目を担っています。二、三個拝借して街で売ったらいい金額になるかもしれませんね。



「リコちゃん、泥棒はよくないと思うよ」


「はは、冗談ですよ」



 現在はジャックさんが仮眠、ロビンさんがクロウさんの見張りを担当。カトリーヌは飼い葉を食べた後は遺跡の入口あたりで腹ごなしのお散歩をしています。

 そこで、残った私とミアちゃんは遺跡の調査をしているのですが、



「調査というか観光ですね、ぶっちゃけ」



 遺跡の壁にはこれ見よがしに文字が彫ってあったりするんですが、私はもちろんミアちゃんにも読めませんでした。古代の文字ですから現在使われているものとは差異があるのでしょう。さっきまで調べていたロビンさん達も読めなかったそうですし、クロウさんによると魔族のほうでも解読は遅々として進んでいないとか。素人の我々に出来る事はあまり多くなさそうです。



「お、ここは宝物庫っぽいですよ」


「でも中身はあんまり残ってないね」



 宝箱が大量に置いてある部屋を途中で見つけたのですが、残念ながら箱の大半はすでにカラッポでした。魔族の調査隊が中身を運び出した後のようです。

 そういえばクロエさんの使っていた仮面はこの遺跡にあった物だと言っていましたね。もしかするとこの部屋にあったのかもしれません。


「お、あの剣は格好いいですね」


 部屋に残っていた豪奢な鞘に入った剣を手に取ろうとしましたが、金属のカタマリだけあってかなりの重さを感じます。素の状態の私が持つのは少し厳しいですね。


 ちなみに現在の私の格好ですが、魔道車の中で干しているローブがまだ乾いていなかったので、仮眠していた時と同じく体操服のままの姿でいます。さっき夕方までに三人が遺跡内を見た限りでは魔物や罠などはなかったそうなので、ミアちゃん共々魔法を使っていません。魔力の無駄遣いは避けたほうが無難ですからね。

 いざとなれば使用を躊躇うつもりはありませんが、魔法を使うと大抵の服はビリビリに破けてしまうので、なるべくならばこの体操服は破らずにいたいものです。元々着ていた下着は破れてしまったので、日本から持ってきた品はもうこれしか残っていませんから。







 ◆◆◆







「あまり目ぼしい物はないですねぇ」


 古代人が使用していたと思われるダンベルがありましたが、一面赤茶色の錆に覆われていて使う気にはなれませんでした。いや、普通の状態でもこんな場所で筋トレをする気はありませんが。



「そういえば、魔法の装置みたいな物も見当たらないね」


「ええ、実際に使えるかどうかは別として把握はしておきたいんですが」



 『魔人』を元の世界に還すための送還魔法。

 それがこの遺跡に封じられているハズなのですが、特に目立った装置などは見当たりません。


 正直な感想を言えば、この成果の無さに対しては落胆が半分。ですが、もう半分は安心していました。いつかは帰らないといけない事に変わりはありませんが、その「いつか」が今ではなさそうだという事に後ろ向きな安堵を得ていたのです。


 長くいればいる程にこの世界への未練が増す事は目に見えていますし、もっと真剣になって探索をすべきだとは思うのですが、どうにも気分が乗りません。こんな調子では見つかる物も見つからないでしょう。





 せめて魔族関連のゴタゴタが片付くまでは滞在して、それからもう一度改めてこの場所に調査に来ればいいのではないか?

 遺跡内を大まかに一回りして入口に戻ってきた頃には、そんな妥協案が頭の中で優勢になっていました。



 ですが、私の意志や事情などお構いなしに、運命の時はもうすぐそこまで迫っていたのです。



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