山中の拾い物
「遺跡は……見えませんね」
「たぶん下からは分からないよう隠されてるんだろうね」
街を出発した翌日の夕方頃、ようやくアトラス山の北側、正確には北北東辺りの位置まで到達しました。時折魔物との遭遇戦はありましたが、私が荒らした場所から離れているせいか無闇に狂乱して襲い掛かってくるモノはほとんどおらず、大半は我々を見ると即座に逃げ出していたので随分とラクが出来ました。
まだギリギリ日が落ちていなかったので、山裾の森の中から山を見上げて目的の遺跡を探してみたのですが、予想通り見つかりませんでした。ロビンさんが言うように、簡単に見つからないような場所に隠してあるのでしょう。
ちなみに森の中から観察した山の様子は、四合目くらいまでは今いる森と同じような木々に覆われていますが、そこから先は岩場が中心で木はまばらにしか生えていません。人の手が入っているはずもない自然の森が線を引いたように綺麗に途切れているのは、地質や酸素濃度の影響でしょうか?
「じゃあ、次は山登りですか。今からだと途中で夜になっちゃいますけど」
目的地は山の北側の中腹にあるという情報ですから、頂上を目指す必要はありません。四合目から六合目辺りの範囲を重点的に探し、それでも見つからなければ三合目から七合目あたりまでを探せば何かしらは出てくるでしょう。数日前に街の近くで見つかった地下神殿のように、自然の穴や洞窟の奥にある可能性を考慮すると少々面倒ですが。
「いや、今から探すとなると松明を使わないといけないからな。森の中で火を使うのは問題ないだろうが、隠れる物のない場所で夜に火を焚くと目立ちすぎる」
「ああ、なるほど、それは確かに」
うっかり忘れていましたが、ジャックさんに言われて思い出しました。現在地はすでに魔族領の中。本来であれば他領への侵入自体は罪ではなくとも、相手が後ろ暗い企みをしているのならば我々の口封じをしようと考えるかもしれません。なるべく隠密行動に徹したほうが無難でしょう。
もっとも、目的地の遺跡は魔族がすでに掌握しているので、道中でどれだけ注意しても、誰かが見張りに残っていた場合は戦闘になる可能性が高いですが。
「では、とりあえず四合目の森の端まで進んで朝まで待機。夜明けと共に捜索をするという事で」
山登りとはいえ、森が続いている部分までは傾斜も比較的なだらかです。魔道車で進む事も不可能ではありません。
そのまま森の中をガタゴトと進み、特に問題もなく三合目までは来れましたが、この先は少しずつ傾斜が急になってきているので慎重に道を選ぶ必要があります。
ここまで来る中で完全に日も落ち、月明かりと松明に頼って視界を確保している状況です。予定よりも少し早いですが、そろそろキャンプ地の選定に入ったほうがいいかもしれません。ずっと歩き通しで、魔法を使っているとはいえ多少の疲労はありますし。
「おや、あれは?」
そんな時、道端の倒木に何気なく目をやったらイイモノを発見しました。
「天然モノのシイタケですね」
私は魔道車を曳く事を禁止されているので身軽に動けます。イチイチ魔道車を止めさせるのも悪いので、シイタケの生えていた倒木をそのまま担いで持っていく事にしました。
この世界だとどうだかは知りませんが、かつての日本ではシイタケ栽培の技術が確立されるまでは、シイタケは高級キノコの一種として扱われていたそうです。この木のシイタケ菌を利用して上手い事増やせれば一儲け出来るかもしれません。
◆◆◆
「これは毒キノコだね。こっちは大丈夫、これはダメ、あとは全部大丈夫かな」
無事に四合目の森の端まで到達し、適度に開けた場所でキャンプをする事になったのですが、さっきのシイタケを使ってキノコ鍋を作ろうとしたところでロビンさんから「待った」がかかりました。
素人目ではよく分からないのですが、私が担いで持ってきた木に生えているキノコの半分くらいはシイタケによく似た毒キノコだったようなのです。名前はそのままシイタケモドキ。危ないところでした。
毒とはいっても食べても命に別状はなく、お腹を下す程度の弱いものだそうです。味は見た目通りにシイタケそっくりなので、知っていても構わずに食べる剛の者もいるそうですよ。
とはいえ、すぐに治療の受けられる街中ならばともかく、こんな人里離れた山の中でお腹を壊したら大変です。少し残念ですが、モドキのほうは食べずにしまっておく事にしました。
ですが、半分の真っ当なシイタケを使ったキノコ鍋は実に美味でした。
味付けは岩塩だけで、あとの具はもはや食べ飽きてきた干し肉、それと適当に切ったタマネギだけの粗末な鍋だというのに、天然シイタケの旨味だけで立派な料理になっています。ビタミン補給用に持ってきた柑橘を使って思い付きででっち上げた塩ポン酢もよく合っていました。
今は油を無闇に使えないので断念しましたが、天ぷらやフライにしたら最高でしょうね。はっきり言って天然モノの実力をナメていました。
ちゃんと食べられるのが半分しかなかったとはいえ、それなりの大きさの倒木にビッシリ生えていた中の半分です。大飯喰らい達が満足するまで食べてもまだ結構余っています。流石に倒木そのものを持っていくのは却下されてしまいましたが、生えていたキノコは全部回収して布袋に入れておいたのでしばらくは楽しめそうです。
カトリーヌのミルクを使ったキノコシチューもいいですし、ちょっと手間はかかりますがクリーム煮も捨てがたいです。シンプルなバターソテーもいいですね。なんとも夢が広がります。実にイイ拾い物をしました。
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