アウトドアご飯
「身体を動かすとご飯が美味しいですねぇ」
前回の血生臭い展開がウソのように、四人プラス一匹はのんびりとくつろいでいました。
さっきまで車内に隠れさせていたカトリーヌも魔道車の外に出して、餌の岩塩入りの飼い葉をモシャモシャと食べています。
現在は森に突入してからおよそ丸一日後、より少し短いくらい。太陽がちょうど真上に来ているのでお昼頃のはずです。
丸半日以上も続いていた魔物の襲撃もすでに体感で二、三時間くらいはありません。時折、草食の小動物や鳥などは見かけますが、人を襲うような危険な生き物はほとんどが死んだか逃げたかしたのでしょう。
干し肉だの乾パンみたいなビスケットだのは、交代で休憩する時や、時には戦闘中にも口にしていましたが、そういう乾き物ばかりだとノドが渇いて仕方ありませんし物足りません。そう思っていたのは私以外も同じだったようです。
そんな折にタイミングよく浅めの小川が流れているのを見つけたので、一応周囲の警戒は続けながらもちゃんとした食事を取る事にしたのです。
火熾しはロビンさんにお願いして、調理は私が担当しました。
危惧していた通り、男性陣はロクに料理が出来ないそうなので、この役目分担は必然です。ミアちゃんが拾い集めた石をロビンさんが組んで簡易的な即席のカマドを作り、その間の周辺警戒はジャックさんにお任せしました。適材適所というヤツですね。
今回のメニューは、ナイフで削ぎ切りにした干し肉と麦、それと削ったチーズ。あとはカトリーヌのミルクを使用して作ったミルクリゾットです。味付けは塩だけですが、意外にも美味しく出来ていました。まあ、空腹補正も少なからずあるでしょうけれど。
「おかわり」
「おかわり」
「おかわり」
「セルフサービスです。食べたければ自分でよそってください」
おっと、呑気に味わっていたら私が食べる分がなくなってしまいそうです。結構大きめの鍋で作ったんですが、もう半分くらいなくなっています。
「足りなければ魚釣りでもしますかね?」
すぐ横を流れている川は深いところでも私の膝上くらいまでしかありませんが、水が澄んでいてマスのような魚が泳いでいるのが見えます。
人に慣れていないのか我々が近くで食事をしていても逃げる気配がありませんし、なんだったら手づかみでも捕まえられそうです。塩焼きにしたら美味しそうですね。
「魚も美味そうだな。でも、予定より遅れ気味だしな……」
「そうなんですか?」
魚釣りの誘いをしてみましたが、ジャックさんからはそんなつれないお返事が。
考えてみれば、あれだけ長時間の予定外の戦闘をしていたのですから遅れは当然です。明確な期限のない旅ではありますが、早いに越した事はないでしょう。残念ですが、塩焼きはまたの機会にしてリゾットを食べ終わったらすぐに出発ですかね。
「目的地まであとどのくらいなんですか?」
私が尋ねると、ロビンさんが魔道車の中から地図を持ってきて説明してくれました。
「今はこの辺り、山の東側にいるから、もう四半周くらい進んでそれから山登りかな」
目の前のアトラス山の北側を時計の十二時とすると、我々が最初にいたのは六時の位置。現在は時計を約三時間分巻き戻った三時の位置にいるそうです。山の形は正確な円錐ではないので多少の誤差はあるにしても、かなりの精度です。こんな森の中なのによく正確な位置が分かりますね。
「夜のうちに星を読んで計測していたからね」
「へえ、すごいですねえ」
「軍の演習で叩き込まれたんだよ」
ロビンさんは謙遜していますが、明らかに難しそうな事を戦いの片手間にやっていたと知り驚きました。一見ただの筋トレマニアの脳筋に見えますが、彼はこう見えて中々デキる男だったようです。流石は美人の嫁をモノにしただけの事はあります。
「ただ、目的の遺跡の正確な位置は分からないから、そこから先はどれだけかかる事やら」
「まあ、そればっかりは仕方ないですよ」
アトラス山の北側の中腹にあるらしいという遺跡ですが、その正確な位置はクロエさんからの情報では割り出せませんでした。彼女に隠す気がなくとも、覚えていないのであれば同じ事です。
まあ、クロエさんのオツムの具合に関しては、私に原因の一端がある可能性に思い至ったばかりなので、現状ではあまり強くは言えません。もし無事に街に戻れたら、お土産に何かお菓子でも持って面会に行ってあげましょうか。可能性は低いですが、将来的に彼女の親族に訴えられた場合を考えて被害者の心象を良くしておこう……などという事は全然考えていませんよ?
「さて、そろそろ出発しますか」
鍋や食器を小川で洗い、ついでに木陰でトイレ休憩も済ませておきました。準備は万端です。お腹が膨れたせいか少し眠たいですが、移動中に車内で仮眠を取れば問題ないでしょう。次はジャックさんが魔道車を曳く番なので、私はその間にカトリーヌと一緒に優雅にお昼寝と参りましょう。
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