デビュー戦終了
どうも皆さん、何故かドラゴンとタイマン張る事になってしまいました私です。空気を読めるというのは、こうしてみると美徳ではなく悪徳なのかもしれません。
普通はもっと弱い敵から少しずつ慣らしていくのがセオリーだと思うんですが、なんでデビュー戦で世界チャンピオンを相手にするような真似をしないといけないんでしょう。仲間達は後方で観戦モードに入っていますし、アテにはできません。
「……まだ気付かれてはいませんね?」
さいわい、最初からこちらが風上にいたので匂いでばれる心配はなさそうです。ドラゴンの聴覚や視覚がどの程度鋭いのかは分かりませんが、百メートルくらいの距離にいる魔道車に気付いていないようですから、もしかすると意外と鈍いのかもしれません。
「……ふぅ……」
こそこそと木陰に隠れながら少しずつ近付き、ドラゴンまであと十メートル強の位置までは来れました。ここから先は身を隠せるような木や茂みはないので、姿を現したら一気に襲い掛かる他はありません。戦闘初心者の私が戦いを長引かせても不利になるだけですし、先手の有利を活かして一気に片を付けるのが最善。
「……先手必勝! 『
元々『
筋繊維の一本一本が爆発的に強靭さを増し、身体の奥底からマグマのように力が湧いてくるのが感じられます。
しかし、魔法の使用と同時にドラゴンが木の後ろにいた私に気付いたようです。魔力か気配か、いずれにしても急激に高まった何かを感じ取ったのでしょう。
私は半ばヤケクソ気味に姿を現すと、全速力でダッシュして距離を詰め……その間、まるで世界の全てがスローモーションになったかのようにゆっくりと感じられました……そして、こちらに振り向いたばかりのドラゴンの鼻面に向かって前蹴りをかましてやりました。
パンッ。
と、そんな風船が破裂したみたいな音が聞こえた気がしました。
最初は何が起こったのか分かりませんでしたが、すぐにその音がドラゴンの全身が弾けた音だと気付きました。体内の血液や内臓や骨格が全てドラゴンの後方、尾のあった方向へとバラバラに分解しながら吹き飛んでいきます。
事態はそれだけでは終わりませんでした。
私の蹴りで発生した風圧によるものなのか強烈な衝撃波が発生し、周囲の木々や地面の土ごとドラゴンの残骸が吹き飛んでいきます。私の蹴りを起点として放射状にその破壊は広がり、土埃がすごいので正確には見通せませんが、数百メートル先までが一瞬にして更地になってしまったものと思われます。
そんな光景を見ながら、私は驚いたものか呆れたものか、それとも怖がったものかと混乱の極みにありました。これまで検証の機会がありませんでしたが『筋力超強化』の威力がここまでのものとは正直想像を超えていました。
しかもさっきの蹴りは、私のヘタクソなフォームのせいで威力が大幅に減衰していたと考えられます。もし、ちゃんと武術の心得がある人が同じ事をしていたら、破壊の規模はこの数倍にもなっていた事でしょう。
「これ、強すぎて使い勝手が悪いですね……『筋力強化』」
封印、というほど大袈裟でも絶対的でもありませんが、よっぽどのピンチでもなければ『筋力超強化』は自主規制しておいたほうが良さそうです。うっかり人の多い街中で使って戦ったりしたら大惨事確定ですし。
「はあ……リコちゃんすごい……」
私が呆然と立ち尽くしているうちに、いつの間にかミアちゃん達がすぐ後ろにまで近付いてきていました。ミアちゃんは私と同じようにビックリしていますが、意外にもロビンさんとジャックさんはそこまで驚いてはいないようです。
「ワシが本気出せばもっとすごいし」
「俺はまだ無理だけど、父上なら同じ事は出来ると思うから」
どうやら、魔法使いの中でもトップ層ならばこれくらいは普通のようです。まさに人間兵器、誇張ではなく言葉通りに近代兵器と同等の威力を出し得るのでしょう。正直、この世界の魔法使いを甘く見ていました。
「そういえば、初めての戦いの感想は?」
ミアちゃんがそんな事を尋ねてきて、ようやくアレが戦いだった事を思い出しました。どちらかというと一方的な虐殺と言ったほうが合っていると思いますが。
「そうですね……やっぱり私は戦いには向いていないみたいです」
別に平和主義者ではないつもりですが、そういう主義思想以前の問題で、私が戦ってもロクな事にならなさそうです。なるべくなら戦いは人任せにしてラクをしていたいですよ。
それはさておきジャックさん、
「くっくっく、童貞を捨てたな」
とかニヤニヤ笑いながら言うのはやめなさい。
初めて殺しを経験したという意味で言っているのは分かりますが、女子に向けてそれを言うのはひどいセクハラだと思います。明らかに確信犯なので言っても無駄でしょうが。そもそも、その言葉は人間相手の殺しを意味するのでこの場合は誤用ですし。
私は自分が楽しむために女の子にセクハラ行為を働く事はあっても、自分がされて喜ぶタイプの変態ではないのですよ。
「それはそれで最悪だからね?」
「そうですかね?」
自分の中では明確な区分があるのですが、私のセクハラにかける情熱はミアちゃんに分かってはもらえなかったようです。『下の口』の意味が分からなかったくらいですから、基礎的な知識が不足しているのでしょう。
うん、最近彼女には押され気味でしたが、きわどいエロ系のネタでいけば主導権を取り戻せるかもしれませんね。あとで、ちょっと検討してみますか。
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