ガールズトーク《メシバナ編》
「へえ、二人であのお店に行ったの?」
「ええ、美味しかったですよ」
場の話題は
「自分で作ってもあそこまでフワフワにはならないですからね。並んででも食べに行く価値はあると思いますよ」
似て非なるモノならば私にも作れると思いますが、そっくり同じモノは無理ですね。多分、微妙な焼き加減や粉の配合に秘訣があると思うのですが、僅かの差を埋める為に本格的に研究までする気にはなれません。そのあたりの情熱の有無がプロとアマチュアの差なのかもしれませんね。
「あら、リコちゃんはお料理するの?」
「ええ、まあ簡単なものばかりですが」
親が家にいない事が多いので、自炊スキルは中一にしてはそれなりだとは思います。外食も多いですけれど、それだけだと高くつきますし飽きますからね。
「私は結婚してからはお手伝いさんにまかせっきりだから、お料理はご無沙汰ね」
「わたしも全然したことないよ。リコちゃんはすごいね」
そういえば気安くお話しているので忘れかけていましたが、このお二人、貴族の奥様とお嬢様なんでした。そりゃあ、自分で包丁や鍋を持つ機会なんてそうないでしょう。
ミアちゃんには料理が出来るという事で感心されているようですが、むしろ私のほうが二人のナチュラルな貴族っぽさにビックリですよ。
「リコちゃんのお料理食べてみたいなぁ」
「あら、いいわね。でも、お客様に作らせるなんて悪いかしら」
「いえ、作るのは別に構いませんけど、本当に大した物はできませんよ?」
これは、もしかして何か作らないといけない流れですかね?
こういう時、日本であればネットでレシピを検索してスーパーで材料を調達すれば多少凝った物も出来なくはないのですが、未知の食材と使い慣れない厨房ではまともな物が出来る気がしません。ちょっと火を使うにしても、わざわざ薪を燃やさないといけないとか頭を抱えますよ。
「この時間ならまだ火は落としてないから大丈夫よ」
「そうですか。じゃあ、ちょっと台所をお借りしますね」
火を使えるならなんとかならなくもないでしょう。
ミリアさんに案内された厨房には、大量の牛乳と卵がありましたし(いつでもたんぱく質を摂れるように常備しているそうです。信じがたいことに)、砂糖と蒸し器らしき調理器具も発見しました。
これだけあれば、アレが出来そうですね。
それじゃあ、一丁やってみますかね。
◆◆◆
「というワケで、こさえてきましたよ」
「あら素敵、プディングね」
「わあ……!」
厨房担当のメイドさん(恰幅と気の良いオバチャンでした)に手伝ってもらいながら、どうにかこうにかプリンらしき物を作るのに成功しました。
卵と牛乳と砂糖を底の深い陶器の器に入れて蒸し上げ、別鍋で作ったカラメル、小奇麗に切った果物、苦労して泡立てたメレンゲで見た目だけはソレっぽくなっています。
電子レンジでやると簡単なのですが、蒸し器だとグンと難易度が上がりますね。しかも細かい調整の難しい薪火ですし。その辺りの火加減は私がやっても失敗する未来しか見えなかったので、メイドさんにお任せしました。初見のレシピにも関わらず完璧に仕上げてくれたのは流石と言うべきでしょう。
一方、私は私でメレンゲを泡立てるのに苦労していました。
電動の泡立て器なんて当然ありませんから手作業で卵白を泡立てたのですが、アレはかなりの重労働なのですよ。最初は普通にやろうとしたんですが、すぐに腕が疲労でパンパンになってしまい五分もしないうちに普通にやるのは諦めました。
ボウルと泡立て器を持って一人別室に移動して、破かないように服を脱いでから魔法を使い、強化された肉体の力で一気に仕上げてきました、全裸で。道具を壊さないように慎重に加減しながらやっていたんですが、それでも電動並のスピードでメレンゲが出来ました。
あとはプリン本体が蒸し上がるまでの時間で、カラメルを作り、果物を切るところまで済ませておきました。それは普通に出来たので特筆すべき点はないですね。
最後に汲み置きの井戸水で容器ごと冷やしたプリンを他の物と一緒にお皿に盛り付け、どうにかこうにか形になりました。盛り付けは例のパンケーキのお店を参考にしたので、メニューは違いますがそれとなく洒落た感じに見えなくはないといったところですかね。
「うん、まあこんなものでしょう」
エプロンを外して食卓に戻り、二人と一緒に出来上がった品を食べてみましたが、だいたい予想した通りの味でした。残念ながらバニラエッセンスはなかったので、作り始める前に思った通り、風味が少し物足りないですが。
「あらあら、美味しいわね」
「うん、すごく美味しいよ」
私としては不満の残る出来でしたが、どうやらお気に召していただけたようです。まあ、多少のお世辞はあるでしょうが。
「リコちゃん、コレお店を出せるんじゃない?」
「いえいえ、私にはとてもとても」
ミアちゃんがそんな風に持ち上げてくれましたが、とても出来る気がしません。
なまじ文明の利器の数々を知っているが故に、この世界での調理の難易度を痛感しました。同じ品を作るのでも日本の自宅でやるのとは労力が段違いです。
やはり、私は自分が作るよりも、誰かが作った物を食べるだけのほうがいいですね。
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