ガールズトーク《コイバナ編》


 「ねぇねぇ、リコちゃんは誰か好きな子とかいないのかしら?」


 「はっはっは、初っ端から恋愛話コイバナとは随分攻めてきますねぇ」


 夕食を頂きながらお話をしているのですが、ミリアさんが妙にグイグイ来るので会話の主導権をつかめません。なんでこの人こんなにテンション高いんでしょう?

 私も命が惜しいので、年甲斐もなく、とは決して言いませんが。

 どこの世界でも女子は他人の恋愛が大好物という事なのでしょう。そういう私はあまり他人の交友関係に興味がないので、あくまでも一般論ですが。



 「ミアにこういう話を振っても全然ノってくれなくて寂しいのよね」


 「ああ、そういう事でしたか。でも、ご期待に沿えなくて残念ですが、私は全然そういう話ありませんよ」



 この世界ではもちろん、元の世界まで含めてもまったく浮いた話がありません。

 別に男性が苦手とか恥ずかしいとかはないんですが、考えてみれば今までの私の人生にそういう要素がまるでないですね。

 あと二十年後くらいにまだ同じ状況だったら、もしかしたら私もそういう状況に危機感を持つのかもしれませんが、今はまだ花より団子、色気より食い気というのが本音ですね。



 「……そうなんだ、ほっ……」


 「ん、何か言いましたか、ミアちゃん?」


 「ううん、なんでもないよっ」


 「そうですか?」



 私に浮いた話がないと聞いた瞬間、何故かミアちゃんが安堵の息を吐いたような気がしましたが、気のせいだったようです。


 主人公とヒロインのボーイミーツガールというのはフィクションにおける王道のストーリー展開ですが、私がこの世界に来てから出会った男性ってすでにお相手がいる方ばかりでしたし、浮いた話に縁がないのは異世界に来ても変わらないようですね。






 「でもホラ、今は好きな人がいなくても『こういう人がタイプだ』みたいのはないのかしら?」


 「おおっと、この話題まだ引っ張りますか」


 「ミアも隠れないの、お行儀が悪いわよ。ね、一緒にお話ししましょうよ」


 「あぅ……」



 ミリアさん、そんなに他人の恋愛に飢えていたんでしょうか。苦手な話を振られる事を事前に察してテーブルの下に避難していたミアちゃんも、ズルズルと引きずり出されてしまいました。


 ですが、そうですね。

 これまで自分自身の好みというのは考える機会がありませんでしたが、後学の為にもこの機会に一度思索を深めておくのもいいかもしれません。



 「そうですね、まず……容姿に関しては、極度に痩せすぎたり太りすぎていたりする方はちょっと……不潔な人も困りますね」


 「うんうん、それから」



 これは好みというか、最低限求めるラインの設定です。この程度の要求ならば贅沢というほどの事もないでしょう。



 「絶世の美男子とかだとこっちが気後れしてしまう気もするので、容姿に関しては最低ラインをクリアしていればまあ……やはり肝心なのは中身でしょうか」



 「美人は三日で飽きる、ブスは三日で慣れる」というのは男性視点での言い回しですが、女子の場合でも同じようなものでしょう。



 「浮気癖や浪費癖があるのは論外ですが、お堅いばかりでも困りますね」



 話していて退屈な相手と一緒に過ごすのは、最初のうちはガマンできても次第にキツくなってきそうです。



 「ある程度のユーモアがあって、あとこちらの趣味への寛容さもあるといいですね」


 「うんうん、それで他には何かないかしら」


 「他には……そうですね」



 いくつかポイントを挙げてみましたが、これらは私の個人的な好みというより、大抵の女性ならば似たような事を考えていそうな感じがします。自分で言うのもなんですが、ちょっと面白味に欠けますね。ちょっとここいらで独自性を追求してみましょうか。



 「あと私は大抵の他人の趣味には目を瞑りますけれど、流石に快楽殺人鬼とかカルト宗教家とかは困りますねぇ」


 「それを『困る』の一言で済ませるのはどうかと思うわよ?」



 独自性の追求に失敗しました。

 まあ考えてみれば、その手の人を相手にしている時点で、関係性としては恋人や夫婦ではなく加害者と被害者の間柄になっている恐れが高いので恋愛どころではありませんか。



 「ところで、ミアちゃんは何かそういう好みとかは?」


 「え? わ、わたしっ!?」


 「はい、参考までに何かないですかね?」


 「ええっと、その……あの……」



 彼女はしばし口ごもった末にこう答えました。



 「わたしは……その、優しい人が好きかな。わたしが困ってる時に助けてくれたりするような……」



 優しい人、ですか。

 ふむ、定番の答えではありますが、それは確かに重要なポイントですね。



 「私も優しい人は好きですよ」


 「そ、そうなんだ。あ、リコちゃん、牛乳のおかわりいる?」


 「あ、これはどうも、いただきます」



 手元を見ると、いつの間にかコップの中が空になっていました。ミアちゃんは気配りの出来る良い子ですね。

 もしも私が男の子だったらこんな優良物件放っておかなかったでしょう。本気で口説いていたかもしれません。まあ、ボーミーツガールならぬガールミーツガールな現状で言っても仕方のない事ではありますが。


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