肉欲の虜となった全裸の少女達(※健全です)


 ようやく街に戻った私は、小脇に抱えていたクロエさんをロビンさんに渡して、背中で寝ているミアちゃんと共に先にお屋敷へと向かいます。他の人達とは街の入口で別れました。


 捕まっていた人達に大きな怪我はありませんでしたが、一応お医者さんの診察は受けるようです。ミアちゃんもクロエさんに思い切り殴り飛ばされていましたし、念の為、後でお医者に行くなり呼ぶなりするように言っておきましょう。先程眠る前に聞いた限りでは、吐き気や悪寒などはないと言っていたので大丈夫とは思いますが。



 「……今日は私も流石に疲れましたね」



 まだ時刻はお昼頃なので、時間にすればほんの二、三時間程度だったのでしょうが、その密度が濃すぎました。街を出発する時から今までずっと魔法を使いっぱなしだったので、肉体的な疲労はそれほどでもありませんが、精神が疲れている感じです。



 ふと、視線を感じて周囲を見回してみました。

 どうも、魔法使いモードの私はかなり目立つみたいで、普通に歩いているだけで道行く人々の注目を集めているようです。視線に悪意の色はなく、どちらかというと好意的な気配を感じますが、少々居心地の悪さがありますね。


 どうやらこの世界では、少なくともこの街では魔法使いというのは、ただ魔法使いであるというだけで敬意や尊敬の対象となるようです。私などはその立場を悪用する魔法使いが出ないのかと考えてしまいますが、少なくともこの街に住む魔法使いは良い方ばかりなのでしょう。


 戦う力を持たない一般の人々にとっては、魔法使いが平和を守ってくれるヒーローのように見えているのかもしれません。







 ◆◆◆







 「あ~……」


 「生き返るねぇ……」



 お屋敷に帰った私達は、真っ先にお風呂場に向かいました。

 着ていた服はひどく汚れた状態だったので、浴室の手前にある脱衣所の洗濯籠に脱ぎ捨てて放り込み、そのまま浴室に突入しました。

 メイドさん達が気を利かせて沸かしておいてくれたようで、湯船の中にはたっぷりと熱いお湯が! 

 そのおかげで待ち時間ゼロで湯船に入る事が出来ました。ナイスです、メイドさん。



 あ、ちゃんとお湯に浸かる前に身体は洗いましたよ。

 踏まないように気を付けていたとはいえ、着ていたトレーニング着は小鬼ゴブリンの血や体液が染み込んだひどい状態になっていましたし、それを着ていた私達の姿も推して知るべし。そのまま入ったら湯船が血の池地獄みたいになっていた事でしょう。


 結局、最後まで直接の戦闘はしなかった私はいくらかマシですが、派手に小鬼を殺しまくっていたミアちゃんの服は返り血でドロドロでした。あれはもう洗濯しても駄目かもしれません。







 「ふぅ~……」


 「はぁ~……」


 昼風呂というのもたまには良いものです。

 入浴というのは夜にするものだという先入観がありましたが、時間をずらしただけで妙な開放感を感じます。


 某国民的SFすこしふしぎアニメに出てくるいつもピンクの服を着た女の子が、しょっちゅう昼間に入浴しては眼鏡の少年に覗かれていますが、この気持ち良さを知ると彼女の気持ちも分かるというものです。その女の子に関しては、あまりにも覗かれる事が多いので、てっきり入浴を他人に覗かれる事に快楽を覚える性癖なのだとばかり思っていましたが、どうやら純粋に昼風呂の愛好家だったのでしょう。



 「今日はこれからどうしますかね?」


 「とりあえず、お昼ご飯を食べて……それからお昼寝でもしようか?」



 いいですね、私も軽く一眠りしたい気分です。

 先程まで血の臭気でマヒしていた嗅覚も正常に戻ってきましたし、ご飯も美味しくいただけそうです。一度意識すると空腹も強く感じられるようになりました。今日のお昼のメニューはなんでしょう?


 今なら大抵の料理は空腹補正で美味しく食べられると思いますが、しいて言うならば小鬼の死体やら臓物やらを山程見たせいか……、



 「焼肉とかいいですねぇ、しかも、あえてカルビやタンではないホルモン系」



 地下神殿で食べたくなったカレーとどっちにするか迷いましたが、今はお肉系を攻めたい気分ですね。肉を欲する気持ち、つまりは肉欲にカレー欲が負けてしまった形です。はは、こう表現するとなんだかエロいですねぇ。


 いえ、臓物とか最初は気持ち悪かったんですけれど、途中から見慣れて何も感じなくなってきまして。流石に小鬼の臓物自体を食べる気にはなりませんでしたが、連想して似たような物を食べたくなってきてしまったのですよ。



 「こう、タレの染みたホルモンを網の上で表面を軽く焦がす程度にさっと焼いて、それを白いご飯の上に一度バウンドさせて余計な脂とタレを落とした状態で口に運ぶ。


 その歯ごたえと旨味を堪能して飲み込んだら、今度は口の中に味の余韻が残っているうちに白米をモリモリと……以下、お腹が一杯になるまでひたすら肉とご飯の繰り返し。


 お米の甘さ、タレの甘さ、そして脂の甘さ。異なる種類の脂が口の中でそれぞれの存在感を主張しながらも、決して反発することなく、むしろ互いの味を引き立てる。


 時折、野菜やスープなどを挟むのもいいですね。舌の重さを解消して、食欲を増進させてくれます。焼いたお肉を葉野菜で巻いて食べるのもグッドですね。


 ああ、でもちゃんとデザート用の別腹を残しておかなくては。そうですね、濃い味の後だとさっぱりしたシャーベットなんかいいかもしれません」



 あ、でもこの世界でまだお米を見ていません。

 焼肉だけならばこの世界にある食材を組み合わせてタレを作れば、それっぽいモノは出来るかもしれませんが、私の中の日本人的な感覚が焼肉をパンで食べる事を拒否しています。



 ぐぅ。


 いけません、変に想像してしまったせいで空腹感がさらに増してきました。……でも、今のお腹の音は私のものではなかったような?



 「……それって、リコちゃんの世界の料理なの?」



 質問で誤魔化そうとしていますが、ミアちゃんは顔を赤くしています。どうやら、さっきのお腹の虫は彼女のものだったようです。



 「だって、あんなに美味しそうに言うんだもん……」



 お腹が空いていたせいで、つい細かいディティールまで想像し、オマケについついそれを口に出してしまいました。その私の独り言を聞いて食欲が刺激され、彼女もまたお肉を食べたいという欲、略して肉欲の虜(とりこ)となってしまったのでしょう。


 でも、細かい味付けは異なるにしても、この世界にも焼肉的な料理はありそうなものですが。やけにご飯の美味しい世界ですし。ああ、もしかすると、自分で焼きながら食べるスタイルは珍しいのかもしれませんね。




 ぐぐぅ……っ!


 と、今度のお腹の虫は二人分まとめて響きました。

 見事な合唱です。独奏ではありえない音の深さを感じました。バンドを組んでステージで披露したいような最高のサウンドでしたね。

 奇抜なバンドというのは大抵出尽くした感がありますが、腹の虫で演奏するバンドというのは前代未聞なのではないでしょうか。






 ぐぐぉぅ……っ!!


 「……そろそろお風呂を上がってご飯にしましょう」


 「……うん、そうしようか」



 もう、空腹感が強まりすぎてボケる気力も無くなってきました。

 ミアちゃんも空腹でツッコミ力が低下しているようですし、お風呂を上がって食堂に向かいましょう。私達の肉欲を満たせるような肉々しいメニューだといいんですが。



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