言葉の意味
今日のお昼ご飯はミートパイでした。
先程のお風呂では焼肉が食べたいなどと言っていましたが、サクサクのパイ生地の中に挽き肉がどっさりと入ったパイはかなり美味でした。刻んだキノコやタマネギなどに加え、臭み消しにハーブ類を入れているおかげで味が単調にならず、最後まで飽きる事なく食べられます。
洒落た外見の割に充分な肉々しさがあるので、私とミアちゃんの肉欲で火照った身体も完全に満足しました。食べ過ぎてちょっと苦しいくらいです。
「なお、この場合の肉欲とはお肉を食べたい欲の略ですので、エロい意味ではありません」
私達のような年頃の女子が声高に「肉欲」などと言っていたら、あらぬ誤解を受けてしまう可能性があります。
世の中には人の言葉尻を捕まえては、やれ規制だなんだと五月蝿い人も少なくありませんし、面倒でも逐一言葉の意味を説明しておいたほうが昨今では安心なのです、メタ的に。
「いいですか? つまり十三歳女子であるところの我々が、本能の赴くがままに肉欲に溺れていたからといっても、それは必ずしもエロい意味ではないのですよ」
「リコちゃんがさっきから何を言ってるのかわからないんだけど……」
「ふっふっふ、ミアちゃんや。そんな風に澄ましていても上のお口は正直みたいですよ?」
なにせ、先程まで私以上の勢いで食事をしていたせいで、ミアちゃんの口の周りにはパイ生地の欠片が付いています。あれこそが、彼女がついさっきまで肉欲に溺れていた証拠!
しかし、ミアちゃんは私の言葉を聞いても怒るでも照れるでもなく、意味が分からないかのようにきょとんとした顔をしています。おや、この反応は予想外ですね?
「上のお口ってなぁに? 口に上とか下とかあるの?」
そうきましたか……!
特にカマトトぶっているのではなく、素で意味を知らないようです。
私は日常的にネットの海に入り浸っている関係でエロ系スラングなども、まあそれなり程度には知っていますが、考えてみればミアちゃんにその手のスラングを知る機会などこれまでなかったでしょう。友達少ないですし。
「ねえ、リコちゃん。上とか下ってどういう意味なの?」
この状況、なんだか逆羞恥プレイみたいになってますね。
さて、どう答えたものでしょう?
正直に教えてもいいのですが、それをやるとここまで築き上げてきた私の清廉潔白なイメージが一転してヨゴレキャラに堕してしまう恐れがあります。
下手をすれば『キャベツ畑』や『コウノトリ』を本気で信じているかもしれないような無垢な少女に、無修正のポルノを見せ付けるような下卑た快感には、正直多少の魅力を感じなくもないですが、今後の関係性を守る為にも今は我慢しておきましょう。
「……私の世界の言い回しで、口の中を下、外を上と表現する事があるのですよ。ほら、口の周りにパイのカスが付いていますよ。取ってあげましょう」
「あ、ありがとう、リコちゃん」
ミアちゃんがチョロかったおかげで、私の清純なイメージは無事に守られましたようです。やれやれ、危ないところでした。適当な言い訳で新しい日本語を作り出してしまいましたが、どうせ確認は出来ないので言った者勝ちです。
「ありがとうございました」
「え、どういたしまして……今のなんのお礼なの?」
「しいて言えば、ミアちゃんがミアちゃんである事に対してのお礼です。さて、それじゃあお腹も膨れましたし少しお昼寝でもしましょうか」
「え? う、うん」
お腹が満たされたら今度は眠くなってきました。
あまり深く眠ってしまうと夜に眠れなくなってしまいそうなので、一時間くらい経ったら起こすようお屋敷のメイドさんに頼み、私達はしばしのお昼寝タイムと洒落込むことにしました。
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