古代魔法
「それでは仮面子さん、まずは貴方の素性について教えてください。素直に喋らなかったり、内容に虚偽があった場合には……分かりますね?」
「ひぃっ!? ……わ、分かったよ、じゃなくて、分かりました。ボクの名前はクロエ、魔族だ……です」
「はい、よくできました、クロエさん。ああ、話しにくければ敬語は不要ですよ」
質問の途中で、少し離れた壁際で待機しているミアちゃんをチラリと見たら、とても素直に話してくれました。先程の『説得』がよっぽど怖かったみたいで、視界の隅にミアちゃんが映るだけで小刻みに身体を震わせています。
一方のミアちゃんは誤解された事に怒って頬を膨らませています。スムーズに情報収集を進める為の作り話でしたが、ちょっとやり過ぎたかもしれません。一通りの話を聞き終わったらクロエさんにはさっさとネタバラシをしておきましょう。
「それで魔族、ですか?」
「うん、ほら人間とは耳の形が違うでしょ」
まあクロエさんを見るに、耳の先が尖っていて肌が浅黒いので、ファンタジーの定番種族である魔族かダークエルフだろうとアタリを付けていたので、然程の驚きはありません。
なので、そういう亜人種族がいる事自体は問題なく受け入れられますが、この世界に来てから私が出会った種族は目の前の彼女を除くと人間だけ。この機会にその辺の知識も補完しておきますか。
「ロビンさん、ちょっといいですか?」
聞き取りを私に任せてスクワットに励んでいたロビンさんに声をかけます。さっき激戦を繰り広げていたばかりだというのにタフですねぇ。
ちなみに捕まっていた兵隊さん達は、さっきの私の魔法で服が破れてしまったので、隣室にてその応急措置をせっせとしています。駄目になった服をバラして糸を取り出し、針を使わずに結び合わせるのはなかなか大変そうです。
「ん? ああ、どうしたのかな」
「この子が魔族だっていうんですけど、魔族ってこの辺にも住んでるんですかね?」
「いや、ずっと北の地方にいるらしいっていうのは聞いた事があるけど、見るのは俺も初めてだよ」
「へぇ、やっぱりワケアリっぽいですね、この子。魔族についてもうちょっと聞いてもいいですか?」
以下、私の質問に対するロビンさんの説明の概略となります。
この世界は(知られている限りでは)大きな円形の大陸である。
その大陸をほぼ均等に四分割する形で、四つの種族がそれぞれの居住地域を支配している。
四つの種族とは、人間、獣人、エルフ、そして魔族。
それぞれの種族は色々な生得的特徴を備えているが、どれかの種族が他種族よりも劣っている、優れているなどの考えは(表面的には)なく、平等である。
歴史上では他種族との争いや和平を何度も繰り返してきたが、少なくともこの二百年ほどは大きな争いは起こっていない。
現在、我々がいるのは当然、大陸の南側の四分の一にあたる人間の支配域である。
同じように大陸の東を獣人、西をエルフ、北を魔族がそれぞれ支配域としている。
現在、人間が交流しているのは東の獣人種族の一部だけで、それ以外の種族とは交流がない。
貿易などの例外を除いて基本的に他種族の支配域に立ち入る事はない。
立ち入り自体は特に違法ではないが、もし他領で犯罪行為を犯して捕縛された場合には、かなりの厳罰が課される可能性が高い。
魔族という種族自体に関しては、没交渉な事もあって耳や肌の色などの表面的な知識しか知らない。しいて言えば、人口が少ないかわりに魔法の才能がある者の割合は他種族よりも高いらしい。
「なるほど、参考になりました。ありがとうございます」
とりあえず、聞きたい事は聞けたのでお礼を言うと、ロビンさんは再びスクワットを再開しました。肝心の魔族についてはそれほど収穫はありませんでしたが、この世界の地形や種族分布に関する情報は大きな収穫でした。これを元にクロエさんをキリキリと絞り上げる事にしましょう。
「さて、それでは質問です。クロエさん、貴方はどうしてこの場所にいたのですか?」
「…………観光」
なるほど、なるほど。観光ですか、そうですか。
この荘厳な地下神殿は観光スポットとしてピッタリ。
きっと彼女もどこかで噂を聞きつけて遥々やってきたのでしょう。
「って、そんなワケないでしょうに。よっぽどお嫁に行けない身体になりたいみたいですね?」
「ご、ごめんなさい!? ホントはこの神殿に封じられた魔法が目当てでした!」
わざわざウソを吐いてまで隠そうとしたという事は、恐らく後ろ暗い事みたいですね。
それにしても、封じられた魔法とはなんの事でしょう?
「……ここだけじゃなくて世界中に何箇所か、大昔の魔法帝国時代の隠し遺跡があるんだけど、その中には当時使われていた古代魔法が封印されてるんだ。一つの神殿に一つの魔法が」
「古代魔法、ですか?」
ほほう、中々に心躍るネーミングですね。
まあ、この世界の事ですから筋肉のキレが増す魔法とかかもしれませんが。あまり過度の期待はしないようにしておきましょう。
「これは魔族の中でもまだ一部の人しか知らないけど、その封印を解いて、強力な古代魔法を魔族だけで独占しようって話があるんだ。でも、魔族領以外の場所で大規模な発掘とか出来ないし……」
「なるほど、それでクロエさんが一人でこっそり封印を解きに来た、と」
このくらいの年の少女をそんな重要な作戦に一人だけ寄越すとは、魔族の方々はよっぽどの人材不足なのでしょうか。クロエさん、戦闘力はさておき、正直あまり知恵が回るタイプには見えませんし、どういう基準での人事なのか気になります。
「それで、他の遺跡にあった情報を元にこの場所を見つけて、何日か前から封印を解く為に色々頑張ってたんだ」
一応、話のスジは通るようですね。まあ、まだ都合の悪い事はいくつか隠しているみたいですが。それについては追々つついていくとして、まずは重要なポイントから押さえておきましょう。
「それで、この場所に封じられている魔法っていうのはどういう物なんでしょう?」
「この神殿にある魔法は『魔人召喚』、無限の魔力を持つとされる魔人を異界から呼ぶ為の扉を開く魔法だよ」
召喚魔法ですか!
なんだ、この世界の魔法もやればできるじゃあないですか。あ、でも結局は単にどこかの世界のマッチョを呼ぶだけなのかも。
あれ、というか……異界から召喚?
「それで、その魔法はもう使ってみたんですか?」
「いや、それが三日くらい前から色々試してるんだけど、最初に一回だけ成功しかけただけで、その後は全然発動しなくて。やっぱり生贄が
色々とツッコミ所の多いセリフでしたが、生贄云々はひとまず置いておきましょう。
三日前。
異界から召喚。
無限の魔力。
あの、もしかして……その『魔人』って私の事じゃないですかね?
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