仮面子さん
「うぅ……ん……」
「おや、お目覚めですか?」
数の暴力でフクロにした謎仮面さん(仮名)が目を覚ましたようですね。てっきりそのまま死んだかと思いましたが、随分とタフな生命力です。
気絶した際に魔法の効果が切れて筋肉が萎んでしまってたので、神殿内にあったロープで縛って拘束しています。魔法を使われたらこの程度のロープは簡単に引きちぎられてしまうでしょうが、もし反抗の気配があれば再び数の暴力が襲い掛かる事でしょう。
いや、それにしても驚きました。
「まさか、女の子だったとは」
私達もそうですが、魔法を使うと元の性別など関係無しに、巨大なマッチョへと変貌してしまいます。顔を仮面で隠していた事もあり、すっかり男性だと思い込んでいましたよ。
「なんだ、結構可愛い顔をしているじゃないですか」
「あ、それ、ボクの仮面、か返して……っ」
ほほう!
聞きましたか、奥さん。この子、ボクっ子ですよ、ボクっ子。
しかも、キャラを作っているのではなく、素で言っているようです。これはポイントが高いですね。なんのポイントだかは私にも分かりませんが。
一人称以外にも触れておきますと、健康的に日焼けしたくらいの色合いの浅黒い肌。セミロングのサラサラの銀髪。ちょっとだけ尖った耳。身長は素の私やミアちゃんよりちょっと高いくらいですが、その割には凹凸の主張激しい胸部。いわゆるトランジスタグラマーという感じですかね。
ちょっと過剰なくらいにあざとい萌え要素をブチ込んだ子ですね。正直キライではありません。
……おっと、まずはやるべき事をやりませんと。
「もしかして、この仮面って大事な物でしたか? まあ、残念ながら返せませんが。見ての通り、もうボロボロですし」
どういう材質で出来ているのか不明ですが、過剰なダメージを受けた仮面はヒビだらけで、原型を保っているのが不思議なくらいです。こんな状態の物を顔に着けたら破片が目に刺さって失明するかもしれません。
あ、よく見えるように仮面子さん(仮名)の目の前で仮面をヒラヒラと振ったらそれがトドメになったようで完全に粉々になりました。そういえば、私はまだ魔法を使用中でしたっけ。軽く振ったつもりでも結構な負担がかかってしまったみたいです。
「形ある物はいずれ失われる……つまり、そういう事です」
「どういう事!?」
格言っぽい事を言って壊した事を誤魔化そうとしましたが、失敗してしまいました。おかしいですね、ミアちゃんならこれで確実に誤魔化せるんですけど。
「なんだか、失礼な事を考えてる気がする……」
私の後ろで待機しているミアちゃんが、心の声にまで速攻でツッコミを入れてくれました。この子、どんな無茶なボケでも拾ってくれるから安心感が半端ないです。
「まあ、それはそれとして」
「「強引に話を逸らした!?」」
ミアちゃんと仮面子さんのツッコミが綺麗にハモりました。仲良いですね、貴方達。
「結局、誰なんですか貴方?」
ちなみに彼女と戦っていたロビンさんとミアちゃんも、突然彼女に襲い掛かられたとかで正体は知りませんでした。
明らかに
「…………」
「おや、話す気はありませんか」
質問に対する答えは黙秘。まあ、想定の範囲内です。
ですが、仮面子さん?
残念ながら、貴方には黙秘権も弁護士を呼ぶ権利も無いんですよ。
「一応、親切のつもりで言っておきますが……『質問』が『拷問』に変わる前に話したほうが貴方の為だと思いますよ?」
「……!? い、言わないっ」
まあ、これに関しては半分ブラフです。
私に可愛い女の子をイジめて楽しむ趣味はありませんし、拷問の方法などロクに知りません。アレはちゃんとやろうとするなら高度な医学知識を必要とするそうですよ。素人がやろうとすると加減を誤ってすぐに殺してしまうとか。
それ以前に、何故か私がこの場を仕切る流れになっていますが、本来であれば仮面子さんの身柄は重要参考人として軍の管理下に置かれるべきでしょう。一般人の私の勝手な判断で拷問など出来るはずがありません。下手をすれば私のほうが犯罪者です。
とはいえ、実際にはやらずにハッタリで脅して情報を聞きだす程度ならばセーフでしょう。ギリで、多分、きっと。
「おやおや、なかなか強情ですね。早く洗いざらい話したほうがいいですよ、仮面子さん」
「ぜ、絶対に話さないから……仮面子ってボク!?」
さて、どういうストーリーでいきますかね。
ロビンさんは……婚約者の前ですし、誤解が生まれたら悪いですから止めておきますか。そうなると、あとは全員女性で、他の人はよく知りませんから……。
「仮面子さん、ちょっとお耳を拝借。実はあそこにいるあの子がですね……それで……なんと……」
「……え、あのおとなしそうな子が……?」
「……それが彼女の手口なんです……そして人前で……」
「そんな……ひどい……」
他の皆さんには一旦離れてもらって、仮面子さんにだけ小声で即興の作り話を耳打ちします。始めは怪訝な顔で聞いていた仮面子さんは、話が進むにつれて顔を青褪めさせ、その目には恐怖と嫌悪による涙が浮かんでいます。
話が一段落したところで話を切り上げ、今度はその様子を離れた所から不思議そうに見ていたミアちゃんに言いました。
「ミアちゃん、ちょっとあの仮面子さんの後ろから抱きついてください」
「え? う、うん」
ミアちゃんは魔力切れで元の体型に戻っています。
その状態の彼女が抱き付いても痛くも痒くもありませんし、普通であれば脅しとしては機能しないでしょう。
「や、やめて! わかった、なんでも喋るから、ボクにその子を近付けないで!?」
ですが、仮面子さんは先程までの強情ぶりなど無かったかのように一瞬で折れてくれました。虚勢を剥ぎ取られた彼女は、ロープで縛られたまま、床を這いずるようにして逃げようとしています。よっぽどミアちゃんが怖かったんでしょうねぇ。
「ミアちゃん、もういいですよ。戻ってきてください」
「うん、わかったけど……リコちゃん、あの子になんて言ったの?」
ミアちゃんとしては、何故自分が仮面子さんにあれほど恐れられているのか理解できないようです。仮面子さんはもう完全に心が折れたようですし、ネタバラシをしても問題ないでしょう。
「いえ、大した事は言ってませんよ」
ただミアちゃんが、女の子と見れば陵辱せずにはいられない、クレイジーでサイコな重度の変態だと言っただけですから。
一見おとなしそうに見える容姿は獲物を油断させるための擬態。
おめおめと近付いてきた愚か者を片っ端から毒牙にかけ、飽きたら捨ててきた歴戦の毒婦。
特に大勢の目の前で無理矢理痴態を晒させるのに興奮する性癖で、今も仮面子さんを見て心の中で舌なめずりをしている。
そんな感じの内容を、あたかも事実であったかのような語り口で話したワケですよ。仮面子さんは素直な性格な上、エロ系への耐性が低いようで簡単に信じ込んでくれました。
「それで、おとなしく喋らなければこの場でミアちゃんの好きにさせますよ、と言っただけですから」
「……ちょ、ちょっと、リコちゃん!」
あ、この怒り方はマジなやつですね。
魔力が切れていたはずなのに、一瞬腕だけマッチョになって頭にチョップを喰らいました。魔法を使っている状態でも結構痛かったです。
一発叩いたら気が済んだのか機嫌を直してくれましたが、今回は私のネタのチョイスが悪かったようですね、反省、反省。
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