合理的なボス戦


 どうも、皆さんこんばんは。

 現在、私の目の前ではロビンさんと謎の仮面の人物による、熱い超人バトルが繰り広げられています。


 いやはや、すごいですね。

 異常な脚力で小刻みなフットワークを駆使するロビンさんは、あまりの速さに残像で何人にも増えたかのようですし、相手のマスクマンはその動きにも惑わされずに要所要所でカウンターを入れています。



 「……あぅ……あ、リコちゃん?」


 「おや、目が覚めましたか、善哉善哉」



 先程、石壁を突き破る勢いで吹き飛ばされてきたミアちゃんが、介抱していた私に気付いたようです。短時間とはいえ気絶していたので魔法の効果も切れ、いつもの小柄な体格に戻っています。

 見たところ大きな怪我はなさそうですし、吐き気や目眩なども無いようで安心しました。

 とはいえ、脳や内臓へのダメージは時間差で来る事もあると聞きますから、後でお医者さんに診てもらったほうがいいでしょうね。


 壁の穴越しに戦闘に目を向けます。

 まあ、いくら魔法を習得したとはいえ、昨日覚えたばかりです。筋力があってもそれを使いこなせなければ、あの超人バトルの中に割って入る事は難しいでしょう。


 現在はロビンさんと謎仮面の戦いはほぼ互角。

 しいて言えば、謎仮面のほうがロビンさんの動きを見切り始めているようで、四対六でロビンさん不利といった形勢のようです。まだ逆転の目がないほどの差ではなさそうですし、加勢をするにしても私が下手に割り込むと、かえって状況が悪化する可能性もあります。



 「おおっ! どうやってるんですかね、アレ!


 ロビンさんが壁を足場にして立体的に走り、相手を翻弄しています。

 そして、そのまま一瞬のスキを突いて強烈なラリアットが入りました。

 決定打にはなりませんでしたが、少なからず謎仮面にダメージが入ったようです。三半規管でも揺らされたのか、片膝を床についてしゃがみ込んでいます。


 ここが好機と見たロビンさんは、助走を付けてからの豪快な飛び蹴り!

 しかし、これで決着かと思われた刹那、謎仮面がダメージを感じさせない機敏な動きで紙一重で蹴りを飛び上がって回避し、逆に全体重を乗せたボディプレスで反撃!


 どうやら、しゃがみ込んでいたのは大技を誘う為のフリだったようです。コレは中々の頭脳プレー!


 双方共に一歩も譲らぬ熱い戦い!

 両雄は再び間合いを取り、相手のスキを探っているようです!」











 「ねぇリコちゃん、なんで実況してるの?」

 「ええと、見てるだけというのもヒマですし、なんとなく」


 勿論、ロビンさんが危なくなったら助けに入るつもりではありますが、どうせ戦うなら出来るだけ敵が消耗してからのほうがいいですし、なるべく手札を出させてからのほうが勝率も上がります。



 それにホラ、男性の方ってタイマンに割って入ると気分を悪くするかもしれませんし?

 よくバトル物の少年漫画とかで、空気の読めないヒロインが合理性の欠片もない感情論で、主人公とボスキャラとの決闘の邪魔をして怒られていたりするじゃないですか。いえ、具体例を挙げろと言われると、意外にパッと思い付かないですけれど。

 空気の読める私としては、ロビンさんがそのまま勝てそうなら放置。もし負けそうになったら、その時初めて参戦して、あとは数の暴力でフクロにして強引に決着を付ける気であります。



 「くっくっく、どう転んでも私の負けはない。これが合理的な思考というものですよ。過程や方法などどうでもよいのです」


 「リコちゃんは合理性だけじゃなくて、倫理感にも気を付けたほうがいいと思うよ?」



 おやおや、ミアちゃんも言うようになりましたね。まあ、内向的で自分の意見を言えないでいるよりは良い傾向だとは思いますが。

 彼女もこの戦いを経て、人間として大きく成長したという事なのでしょう。小鬼ゴブリンを殴り殺して得られた人間的成長には少なからず問題がありそうな気もしますが、とりあえず度胸は付きそうです。



 「あ、危ない、ロビン!?」


 観戦中、すっかり存在を忘れていたリーズさんの叫びによって、注意を再び戦いのほうへと向けました。二人とも床に転がり、謎仮面がロビンさんの右腕に四の字固めをかけようとしています。もし片腕が折れてしまったら、もうロビンさんに逆転は不可能でしょう。



 「やれやれ、仕方ありませんね……『全体筋力強化ミナマスール』!」


 「えっ?」


 「な、なに……!?」


 「これは……力が漲ってくる!」



 私が『全体筋力強化』を唱えると、魔法の効果が切れていたミアちゃんと、助け出した十二人の兵隊さん達の身体が、わずか数瞬の間に強靭なマッチョへと変貌を遂げました。例によって衣服が破れてしまっていますが、大事の前の小事、今は人命救助が優先です。



 「さあ皆さん、ロビンさんを助け、あの怪しい仮面をフクロにするのです!」



 兵隊さん達は「それでいいのかなぁ?」みたいな表情をして迷っていましたが、勝てば官軍という名言もあります。悩み事がしたければ、とりあえず勝利を確定させてから悩めばいいのです。


 とりあえず、ロビンさんの腕が今にも折れそうな状況だったので、慌てたリーズさんが謎仮面の無防備な頭部に全力のサッカーボールキックを入れて引き離し、他の人達もどこか釈然としない表情のままでしたが、なんとなく流れで謎仮面に一撃ずつ入れ始めました。



 一対一でもほとんど互角だったというのに、今や人数差は十五対一。

 四の字固めから脱出したロビンさんが、ボロ雑巾のようになった謎仮面の両腕を関節技で完全に拘束し、初のボス戦は完勝と相成りました。



 ところで、別行動をしていた二人が戦っていたので敵だと判断したんですけれど、結局、この仮面の人って誰だったんでしょう?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る