ボス戦フラグ
「よし、こんなもんでしょう」
牢の入口にはまっていた鉄格子を、力任せに捻じ曲げて人が通り抜けられる幅を確保しました。ちゃんとした扉も付いてはいたんですが、鍵を探すのが面倒だったので、端折れるところはどんどん端折ります。
「あと武器も要りますかね?」
捕まっていた兵隊さん達は、元々身に付けていた武装を奪われた丸腰の状態です。周囲をよく探せば見つかるかもしれませんが、この状況では取り戻すのは諦めたほうがいいでしょう。もしかすると思い入れがあったり高価だったりする品もあったかもしれませんが、命には換えられませんので諦めてもらいます。
とはいっても、完全な丸腰では不安ですし、私に彼女達全員を守りきる自信などありません。もちろん手助けはしますが、基本的に自分の身は自分で守ってもらいましょう。
そんなワケで、牢の鉄格子を力任せに取り外し、上下を適当に捻じ切って一人一本渡しました。ちゃんとした武器には遠く及びませんが、捻じ切った部分が鋭く尖っているので即席の槍代わり程度にはなりそうです。
私一人ならば見つからずに移動できましたが、この人数で同じように隠れながら進むのは難しいですし、戦闘になる可能性は高まったと考えています。
上の階で未だ暴れ続けているであろうミアちゃん達と合流すれば戦闘をお任せできるでしょうが、合流するまでは気を抜かずにいきましょう。
「じゃあ皆さん、私が先導しますので逸れないように付いてきて下さい」
「ああ、かたじけない、リコ君」
言ってから気付きましたが、ツアーガイドにでもなったようなセリフですね。地下遺跡観光ツアー……小鬼さえ排除できればそれもアリかもしれません。
そうだ、歩きながら聞いておきますか。私は前方を警戒しながら、小声ですぐ後ろを歩くリーズさんに聞いてみました。
「ところで、この遺跡ってなんだか分かりますか?」
この世界の人であれば、少なくとも私よりは歴史に明るいでしょう。
「いや、街の近くにこんな物があったとは……我々も驚いているよ。だが、一応推測はできる」
「ほう、なんでしょう?」
「かつて、遥か古い時代に存在したとされる魔法帝国の遺物だと思う」
魔法帝国!
そういうのもあるんですか、ロマンがあっていいですねぇ。
「その頃の知識は大半が遺失しているが、全ての住人が強大な魔法の力を持ち、今の時代とは比べ物にならないほど繁栄していた……という話があるんだ。ついさっきまでは眉唾だったけどね」
「じゃあ、この遺跡って結構とんでもない価値があるのでは?」
地球基準でいえば、ムー大陸の実物が海底で見つかった、みたいなものじゃないですか。
あまりに価値がありすぎると観光地としての商業利用が難しくなりそうですが、世間に与えるインパクトは相当のものがありそうです。第一発見者の一人として、私も色々と美味しい思いができるのではないでしょうか。
と、そこまで考えたところで、上のほうから破壊音が聞こえてきました。
「しまった!? あの二人を止めませんと!」
貴重な歴史的発見が暑苦しい筋肉によって全部壊されてしまいます。
今回の目的であった人質の救出は出来ましたし、早く二人と合流して脱出しましょう。
別行動を取り始めてからしばらく経ちますが、耳を澄ませば大まかな位置は分かります。地下牢に通じる階段を上りきったところで戦闘音の発生源を確認し、そちらの方へと伸びる通路に入りました。
神殿内は通路が入り組んだ複雑な構造になっていますが、先程までの探索中に入口から現在地までの順路は把握しています。音の発生源も入口付近のようなので、無駄な捜索は最低限に抑えられそうです。
周辺警戒も必要なので全速力とはいきませんが、小走りくらいの速さで通路を進みます。さっきまで捕まっていた皆さんも、普段の訓練の賜物なのか、遅れるような事はありません。
進むにつれて、周囲には
さっきから見慣れているので感覚がマヒしてしまいますが、かなり凄惨な状況です。
なるべく死体を踏まないように歩いていますが、それでも完全に避けることは難しく、私達の靴は血で真っ赤に染まっています。
それに、嗅覚が鈍くなってきているので自分では分かりませんが、全身に悪臭が染み付いている事でしょう。
流石に気持ち悪いですね。
街に戻ったら早速お風呂に入って身体をよく洗いませんと。
そんな事を考えていた時でした。
突然、私の目の前の壁が豪快な破壊音を立てて崩れたのです。
さては、ミアちゃんかロビンさんのどちらかが壁を壊したのかと思い、もうもうと立ち込める土煙の中を見るべく目を凝らしました。
「……ミアちゃん?」
壁を壊したのは彼女か?
その答えは正でもあり、否でもありました。
なぜなら、彼女は何者かに殴り飛ばされた結果、吹き飛ばされて壁を突き破って出てきたのですから。
ミアちゃんの命に別状がない事を確認してから、壁に空いた大穴の向こうをそっと覗いてみました。そこではなんと、ロビンさんと仮面で顔を隠した謎の人物とが、手に汗を握るような激しい戦いを繰り広げていたのです。
あ、もしかして、ボス戦っぽい流れですかね?
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