救出作戦開始


 報せを受けた約一時間後、私は何故か街から離れた荒野にいました。

 まあ何故かも何も、昨日危惧していた通りに、魔法使いとして協力を要請されただけの話なんですが。


 現在あの街にいる魔法使いは、私を除くとミアちゃんの一家四人、それ以外に一人の合計五人しかいないそうなのですが、街の防衛を考えるとその全員が街を空けるというわけにはいきません。


 というか、具体的な人数を知らなかったんですが、魔法使いって本当に珍しいんですねぇ。あの街、少なくとも数千人くらいの人口はいそうなんですが、たったのそれだけしかいないとは。


 協力に関しては、私としては出来れば穏便にお断りしたかったというのが本音なのですが、何故か作戦会議の場で完全に行く空気になっていたので拒否しきれませんでした。


 あの状況で無理に断ってあの家との関係が悪くなったら、ただの無一文から宿無しの無一文にクラスチェンジしてしまう恐れがあるので、あまり強く言えなかったんですよ。


 また、昨日の時点でミアちゃんが魔法を使えるようになった事も、私が同行する理由として働きました。彼女、未来のお姉さんが危険な目にあっているせいか妙にやる気を出していて、あのままだと一人で突撃しかねない様子だったんですよ。

 流石の私も友人を見殺しにしたくはありませんし、最悪の場合はミアちゃん一人だけでも担いで逃げ出すつもりで来ています。





 ―――頭を切り替えましょう。

 とりあえず、過ぎた事は仕方ないとして、やるとなったからには結果を出さないとワザワザ出張ってきた甲斐がありません。


 現在この荒野にいるのは三人。

 私、ミアちゃん、ミアちゃんのお兄さんのロビンさんです。全員すでに魔法を使って身体を強化した状態です。衣服に関しては昨日の筋トレ時にも使った伸縮性のあるトレーニング着を着用しています。あのスク水とレスリングのウェアの中間みたいなヤツです。


 他の三名の魔法使いの方は街の防衛の為に残りました。

 魔法使い以外の兵隊の方々も後続として来る予定ではありますが、行軍速度の差や戦力差からいって、あまりアテに出来そうにはありません。

 

 昨日魔法を使えるようになったばかりのミアちゃんや、同じく魔法初心者かつ民間人の私が重要な救出作戦に加わるのは正直どうかと思うんですが、他の人は特にこの状況に疑問を持っていないようです。使えるものは性別や年齢に関係なく何でも使うというのがこの世界では普通の考えみたいですね。


 伝令兵さんの報告によると、件の小鬼ゴブリンは正規軍の作戦の裏をかくほどの知能があるようですし、単純な数だけでも相当の脅威がありそうです。 


 今回は救出が主の作戦ですし、出来れば戦いは回避したいんですが、見つからずにそれを完遂するのは難しいでしょうね。







 ◆◆◆






 

 街から馬の足で三十分、魔法使いの足で五分ほどの距離の所に大きな穴が開いていました。


 いや、魔法を使った状態で全力疾走したのは初めてだったんですが、自分で自分の速さにビックリしましたよ。いくら走っても息が上がりませんし、舗装されていない自然の道を自動車以上の速度で走れました。


 ついでに言うと、その速度で一回思いっきりスッ転んだんですが、皮膚も強化されていたのでかすり傷すらつきませんでした。逆に砂利交じりの地面の方が抉れたくらいです。


 周囲に大きな岩がゴロゴロと転がっているので遠目からは発見しにくいですが、これが例の巣穴に間違いないでしょう。

 

 巣穴の周囲には先の戦闘の跡と思しき痕跡が残っています。人の死体が見えないのはこの際良かったのかどうか微妙な線ですが。中に入ったらトラウマ物のエログロ展開とかはやめて欲しいですね、切実に。フリじゃないですよ?



 「さて、それではまずは慎重に……」



 完全に冷静さを欠いている他二人にとりあえず待機を求めたのですが、



 「うおぉ、今いくぞぉ!」


 「リーズさん、待ってて下さい!」



 脳筋二名は罠の確認すらせずに真っ暗な巣穴に飛び込んで行ってしまいました。


 心情を考えると仕方ないのかもしれませんが、攫われた人達が人質になっている可能性を考えてもう少し自重してもらいたいところです。済んだ事は仕方ありませんが。



 「やれやれ……」



 耳を澄ますと、巣穴の中からが潰れたり砕けたりする音が断続的に響いてきます。


 どうやら先行した二人が中で大暴れしているようです。ロビンさんはまだしも、あのミアちゃんのどこにそんな闘争本能が眠っていたのでしょう? やっぱり血筋でしょうかね、戦闘民族的な。



 さて、気乗りはしませんが、私もいつまでもこうしてはいられません。

 正直、戦闘に自信はありませんが、出来るだけの事はやってみますか。

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