トラブル発生
「はて、何か忘れているような?」
「どうしたの、リコちゃん?」
食堂にて朝食を頂いていたところ、何か頭の隅に引っかかるような違和感を覚えました。上手く説明できないのですが、奥歯にネギの切れ端が挟まったようなすっきりしない感じがあります。
ですが、考えても分からなかったので気にせず朝食の続きに取り掛かる事にしました。思い出せないという事はきっと大した事ではなかったのでしょう。
そんな事よりも、今日の朝食も実に美味です。
昨日と同じく卵料理が多めですが、バリエーションが豊かで、もし毎日食べ続けたとしても当分は飽きそうにありません。特にバターの風味薫るオムレツが絶品で、基本的に食が細い私にしては珍しくおかわりまでしてしまいました。
パンも焼き立てでまだホカホカと温かいですし、ベーコンやハムなどのお肉系も日本だったらそこらのスーパーではお目にかかれないような上物ばかり。食関連で無双できないのは少し残念ですが、こうしてみると食文化が既に円熟した世界に来れたのはラッキーでしたね。普段からこんな朝食が食べられるのならば早起きも苦ではないかもしれません。
「すみません、牛乳のおかわりをお願いします」
コップの中の牛乳がカラになったので、食卓の脇で控えていたメイドさんにおかわりを所望しました。冷蔵庫がないので「キンキンに冷えてやがるっ……!!」とまではいきませんが、冷たい井戸水を組溜めて、その中に瓶を入れて保冷しているのでほどよく冷えています。あまり冷たすぎると胃腸に負担をかけるので、むしろこのくらいの温度の方が個人的には好みですね。
この家の方は皆が皆、牛乳をガブガブ飲みます。
食卓を見れば、今もお父上とお兄さんが早飲み競争のような勢いで次から次へと何杯も飲み干していますし、お母上やミアちゃんも負けてはいません。一人頭二リットルくらいは飲んでるんじゃないでしょうか。私はまだまだ二杯目に取り掛かったところだというのに、どうしたらあんなに沢山飲めるのか不思議です。
……おや?
「誰か一人足りない気が?」
「そういえばリーズさんいないね、お仕事かな?」
リーズさん……ああ、あのお兄さんの婚約者の人ですね。
一回会ってそのまま何も無かったので忘れてました。
「彼女なら昨夜のうちに街を出たよ。明け方から
あ、お兄さん、説明ゼリフどうもです。
外見の濃さに反して、まだ軽くしか関わってないせいかキャラが薄く感じてしまうんですよね。今は魔法も使ってないから外見も普通のイケメンさんですし。
「朝からお仕事とは大変ですねぇ」
それも明らかに血生臭いタイプの重労働。とても私には見習えそうにありません。
私が将来っ仕事に就くとしたら、なるべく室内から出ずに疲れない仕事がいいですね。休みが多くてお給料が高くて、それでいて人間関係のストレスに悩まされないようなのがあればいいんですけど。
私が、そんな風に世の中をナメた事を考えていた時です。
突然、お屋敷の玄関のあたりからドタバタと物音が聞こえてきました。まだ早いですが、こんな時間に急な来客でしょうか?
お兄さんが席を立って玄関まで様子を見に行き、そして十秒後、血相を変えて食堂に戻ってきました。
「大変だ、リーズの部隊が小鬼の襲撃を受けて半壊したらしい!」
「な、なんだって!?」
来客の正体は、命からがら逃げて来た伝令兵さんだったようです。外壁のところにいた衛兵の方達に事態を伝え、その足でこの家まで来たみたいですね。そういえば、ミアちゃんのお父上は軍のエラい人なんでしたっけ。
どうやら、小鬼の巣に急襲を仕掛けるつもりが、逆に不意を討たれて部隊の半数が負傷。リーズさんを含む数名の隊員がそのまま連れ去られてしまったという事だそうで。
まあ、私としてはあれだけフラグ全開だった人がそうなるのは、むしろ予想通りというか「やっぱり」という感想しかありません。
とはいえ、そんな風に冷静さを保っているのは私だけのようです。食堂からは先程までの穏やかさが失われ、誰も彼もが慌てふためいています。やれ被害の報告だの、救出部隊の編成だのともっともらしい事を言っていますが、浮き足立っているのは一目瞭然。
こんな時だからこそ、落ち着いて冷静さを保つようにすべきなのですが。
「というわけで、落ち着く為に牛乳をもう一杯お願いします」
「リコちゃん、流石に落ち着きすぎじゃないかなっ!?」
こんな時でも私のボケに的確なツッコミを入れてくれるミアちゃんは流石ですね。
さて、それはさておき、牛乳を飲み干して一段と落ち着いたところで今後の方策を考えるとしますか。
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