武器を見に行こう
「……つまり、魔法使いは武器を使わない、と?」
「うん、普通はそうだけど」
なんということでしょう……。
ミアちゃんの説明によると、この世界の魔法使いは武器を使わない、正確には必要としないそうなのです。
これだけでは意味がわからないでしょうから、どういう事か詳しく解説しましょう。
例えば、普通の人が新聞紙を丸めて棒状にした物で何かを叩いた図を想像してみてください。叩いた物が豆腐のような柔らかい物でない限りは、新聞紙の方が力に耐え切れずに折れ曲がってしまうことでしょう。
魔法使いが金属の武器を使った場合にも似たような事が起こります。
たとえ振るうのが頑丈な金属のカタマリであっても、筋力に耐え切れずに折れるか砕けるかしてしまうのだとか。力を加減すれば武器を壊さずに済むかもしれませんが、そうなってくると本来の持ち味である異常な筋力の意味がなくなってしまいます。
武器の使用に付き物の手入れやコスト面の問題を考えると、素手で戦うのが一番効率が良いという結論に至るのです。
魔法使い以外の人が使うので武器自体は広く普及しているのですが、魔法を使える私にとっては無用の長物というわけです。正直ガッカリした気分は否めません。
「まあ、それはそれとして見にはいきますが」
自分で使えないのは残念ですが、実際の使用と鑑賞して楽しむ事はまた別問題です。もしかすると使える物があるかもしれませんし、私達は近所にあるという鍛冶屋さんを訪ねる事にしました。
◆◆◆
お屋敷から歩いて五分足らずで、目的の鍛冶屋さんに到着しました。
工房兼店内で、大きなハンマーで熱した金属の棒をトンテンカンとやっている、いかにも職人という感じの親父さんがここのご主人のようです。
いいですね、この鉄の匂い。
店内には様々な武器や防具が丁寧に並べられ、私のゲーマー心をくすぐります。
「こ、こんにちは」
「おや、ミアお嬢様じゃないですかい、こんな所に珍しい」
ここはミアちゃんのお父上が贔屓にしているお店だそうで、店主さんはミアちゃんの事を知っていました。もっとも、彼女は人見知りモードを発動して私の後ろに隠れてしまいましたが。
「旦那に頼まれた新しいバーベルならもう少し待ってくんな。普通の鉄だとデカくなりすぎるから特注の合金を発注してるんで」
ああ、そういう事でしたか。
魔法使いは武器を使わないはずなのに、お父上が鍛冶屋を贔屓にしていると聞いて疑問を感じていたのです。安定の脳筋解答でした。
「ああ、いえ、注文の催促ではないのです。私は彼女の友人なのですが、武器の類に興味がありまして、ご迷惑でなければ少々見せていただけないかと」
ミアちゃんが後ろに隠れたままなので、私が直接用件を店主さんに伝えました。
「へえ、珍しいお嬢ちゃんだな」
「いえいえ、それほどでも」
「いいぜ、倉庫の鍵を開けてやるから好きに見ていきな」
そんな風にすんなりと見学の許可を頂くことができました。
恐らくは、お得意さんの関係者という事で気を利かせてくれたのでしょう。どこの世界でもコネがあると物事がスムーズに進むのは同じようです。
鍛冶屋のご主人に案内されて倉庫に足を踏み入れると、そこにあったのは一面の武具。店内に陳列されていたのは全体のほんの一部でしかなかったようです。
実用一辺倒の無骨な造りの戦斧。
儀礼用と思しき繊細な装飾が入った細剣。
一見どうやって使うのか分からない、棍棒の柄に投網が付いた武器。
他にも様々な種類の武器が種類ごとにまとめられ、所狭しと並んでいました。残念ながらガンランスはないようですが、不満などあろうはずもございません。
「おおぅ……!」
やはり本物の武器というのは迫力が違いますね。
萌えました……もとい、燃えました。
店主さんに許可を頂いた上で試しに本物の剣を持ってみたんですが、かろうじて持ち上げる事が精一杯で、私の素の腕力ではすぐに手がプルプルと震え出してしまいました。とても、まともに振れそうな気がしません。
実際、試し切り用の丸太に向けて振り下ろしてみたんですが、切っ先が浅く食い込む程度にしか威力が出ませんでした。店主さんが同じ剣を使って丸太を両断するところを見せてくれましたから、これは武器の品質ではなく単に私の腕の問題なのでしょう。
魔法を使わない状態であれば剣を操れないものかと密かに期待していたんですが、世の中そう上手くはいかないようです。
まあ、それはそれで楽しかったので、それほど気落ちはしていませんが。
武器に興味がないミアちゃんが退屈そうにしていたので一時間足らずでお暇する事にしましたが、実に興味深い体験でした。
デートはまだ始まったばかりです。
さて、それでは次はどこに行きましょう?
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