デートに行こう
朝の暑苦しい奇習を終えた後、ミアちゃんのお父上とお兄さんはお仕事があるという事で出勤していきました。
私はというと、先程検証した魔法の種類ごとの効果を、忘れないうちに紙に書き留める作業をして、お昼ご飯の前までにどうにかキリの良いところまで終わりました。
ファンタジー系の創作物だと紙や筆記具が高価だったりするパターンも多いですが、客人に好きなだけ使わせる余裕があるという事は、この世界ではそこまでそれらの品々が貴重というわけではなさそうです。
食文化の妙な発展ぶりといい、一見すると中世風ファンタジーな世界観なのですが、意外と文化レベルの高い世界ですね。現実でまでハードモードを求める趣味はないので、ヌルゲー化はむしろ歓迎ですが。
ふむ、まだまだ調査と検証が必要ですが、魔法の存在のおかげで地球における文化の発展とは違う道筋を辿った結果という事なのでしょうか?
昼食に出されたパスタ料理とサラダを頂きながらも、私は頭の片隅でそんな事を考えていました。ペンネに似た形状のパスタにクリーム系のソースやキノコ等の具が和えられていて、実に美味です。
普段であれば持て余しそうなほどの量がありましたが、午前中に身体を動かしたせいかお腹が空いており残さず綺麗に平らげました。たくさん動いてたくさん食べる、私らしくもない健康的な生活スタイルですね。
さて、それではお腹も膨れましたし、午後は何をして過ごしましょうか?
「そうだ、デートをしましょう」
「えぇっ!?」
この家の中にこもっていては得られる情報に限りがあります。せっかく地元民のミアちゃんと仲良くなったのですから、親睦を深めながら色々と案内してもらいましょう。
「何か用事でもあれば無理にとは言いませんが?」
「ううん、ヒマ! すごくヒマだからっ!」
さいわい、ミアちゃんも特に用事などはなさそうです。ここまで全力でアピールするという事はよっぽどヒマなんでしょう。お金持ちのお嬢様なので色々習い事でもしているのかと思いましたが、案外自由気ままに日々を過ごしているのかもしれません。
「おっと、外に出るなら服を着替えた方がいいですね」
ないとスースーして気が散るので下着だけはミアちゃんの物を借りましたが、その上にはお馴染みの体操服の上下を着ています。動きやすいし着心地もいいんですが、流石に街中では目立ちすぎそうです。
◆◆◆
というワケで、ミアちゃんから服や靴、小物を入れるポシェットまで一式借り受けました。可愛らしいふわふわしたデザインのブラウスに、膝下まで丈のあるこれまた可愛らしいスカートを合わせてあります。
ファッション関係にはそれほど明るくないのですが、こういうのが風の噂で聞く「ゆるふわコーデ」なるものなのでしょうか。普段はユニシロのセール品専門の私にはどうもピンと来ませんが。恥ずかしながら、余分なお金があればファッションではなくゲームに注ぎ込んでしまいがちなものでして。
こんな事では「女子力たったの五か、ゴミめ」などと、某超有名漫画に登場する尻尾の生えた宇宙人に言われても反論できません。ところで関係ありませんが、その元ネタのセリフを言ったあの人、主人公の実のお兄さんにしては戦闘力にしろ個性にしろ今ひとつパッとしませんでしたね。その直後に登場した野菜王子はあれほど人気があるというのに、作品内での露骨な格差を感じます。
「わぁ、可愛いよ、リコちゃん!」
「恐縮です」
なんだか、着替えた当人の私よりも、ミアちゃんのテンションが上がっている気がします。着せ替え人形で遊ぶようなノリでしょうか。
懐かしいですねぇ。
私も小さい頃には当時の友達と、よく人形を使っておままごとなどをして遊んだものです。私がやると、おままごとの話のジャンルが途中から何故かサイコホラーになってしまうので、だんだんと誘われなくなってしまいましたが。
「それじゃあ行こうか、どこか行きたい場所とかあるの?」
「そうですねぇ……」
しばし黙考し、いくつか考えていた候補の中から目的地を決めました。せっかくのファンタジー世界ですから、あのお店には行っておきませんと。
「まずは武器屋さんに行ってみたいですね」
こういう事を公言するとますます女子力が下がりそうですが、武器の類にはロマンを感じます。これが銃火器等の『兵器』になるとそうでもないんですが、剣や槍などの近接武器は様々なゲームや漫画でも頻繁に目にするので恐らくはその影響でしょう。
そうですね一例として挙げると……結構昔の漫画なんですが、現代日本の少年が相棒の妖怪とコンビを組んで戦う作品の主人公の主武器が少年漫画には珍しく槍でして、あれは印象深かったですね。様々な戦いや冒険を経て仲間と共に成長していくという王道作品なんですが、これが傑作なんですよ。小学生の時に中古でまとめ買いして一気に読んだのですが、ラスト二巻はボロ泣きでした。
それ以外でも反りが通常と逆になった日本刀ですとか、重く分厚く大雑把すぎるドラゴンも殺せそうな大剣ですとか、どれもこれも魅力を感じますね。
以前、学校の行事で鎌倉に行った事があるのですが、有名な大仏のあるお寺の近くに模造武器をたくさん置いてあるお店がありまして、あの時は様々な武器を見てらしくもなくテンションが上がってしまったものです。
あの時の私は「ショーウィンドウに飾られたトランペットに憧れる貧しい黒人少年のようだった」と一緒に班行動をしていたクラスメイトからやけに具体的な例を出して言われてしまいました。
このファンタジー世界ならば、模造でなく本物の武器を扱うお店もあることでしょう。
まあ、それらを使う技術など私にはないので見るだけに留めるつもりではいますが、一度くらいは本物の武器屋さんに行ってみたいのですよ。日本に持ち帰るとなれば所持許可とかが面倒臭そうではありますが、可能であればお土産にしたいくらいです。ガンランスとかありませんかね?
しかし、長々と熱く語った私の熱意に反して、ミアちゃんの反応はつれないものでした。
「ねぇリコちゃん、なんで武器屋さんなの?」
やれやれ、これだからロマンを解さない女子供は……などと、同じく女で子供である私が思うのもどうかと思いますが、やはり一般的な女子は武器にロマンを感じたりはしないのでしょう。ええ、知ってましたとも。
ですが、ミアちゃんの言う「何故、武器屋なのか?」という問いには、私の考えるものとは違うニュアンスが含まれていたのです。
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