朝食の席にて
「いただきます」
ミアちゃんの部屋で一夜を明かした翌朝、私は朝食をご馳走になっていました。
献立は、ゆで卵、ベーコンエッグ、スクランブルエッグ、野菜サラダ、トースト、牛乳、果物というシンプルながらも満足感の高い内容。卵料理が多めなのは、きっと筋肉の為にたんぱく質を摂るためなんでしょうかね。
普段の私は、作るのが面倒で朝は牛丼屋の朝定食などで簡単に済ませてしまう事も多いので、むしろいつもよりも充実した内容の朝食を堪能しています。
「それにしても、この世界のご飯、なかなか美味しいんですよね……困った事に」
今後の金策候補として、地球の料理知識を活かした料理無双という展開も考えていたんですが、元々食文化がここまで発展しているのでは然程の効果は見込めません。やろうとしても、精々が目新しいレシピで小金を稼ぐくらいしか出来ないでしょう。
両親が家を空けがちなせいか、私は中学生にしてはそこそこ料理をするほうではあるのですが、それでも所詮は家庭料理レベルです。
「姉さんならば、それでもどうにかなったかもしれませんが」
正確には実の姉妹ではなく従姉妹の間柄なのですが、私には昔から姉さんと呼んでいる人がいます。家が洋食屋で自身も料理人志望だという姉さんならば、高校生ながらも料理はプロ級ですし、この世界でもあるいは料理で身を立てる事が出来たかもしれません。
「まあ、言っても仕方ありませんが」
私は姉さんではありませんし、元々料理に情熱があるわけでもありません。金策に関しては別の方法を考えるとしましょう。
◆◆◆
「……ところで、さっきから気になっていたんですが……」
「なぁに、リコちゃん?」
「そちらの方々はどちら様でしょう?」
一緒に朝食の卓を囲んでいる人々をちらりと見て、私はこっそりと隣のミアちゃんに小声で聞きました。私以外の皆さんがあまりに自然にしているので話を切り出しにくかったのですが、昨日の夕食の時にご挨拶したミアちゃんのお母上以外は初めて見る人ばかりなのです。
具体的にはヒゲがシブい中年のオジサマと、爽やかなインテリ系のイケメンさんのお二人。昨日のマッチョなお父さんとお兄さんはどこに行ってしまったのでしょう?
「あ、そういえば昨日はお父様とお兄様は魔法で大きくなってたから分からないよね」
聞いてみたところ、特に謎というほどの事でもありませんでした。
現役の軍人にして魔法使いであるミアちゃんのお父上とお兄さんは、魔力を養うための鍛錬の一環として、仕事を終えてから就寝までの間はなるべくマッチョ体型を維持するようにしているのだそうで。
つまり、昨日ご挨拶した彼らの姿は魔法によって変わった後の姿。ほとんど別人に見えますが、今の体型こそが彼らの本当の姿というわけです。
ひそひそと話していたら、テーブルの対面にいたミアちゃんのお父上が私に話しかけてきました。
「昨日はあまりお構いできずに済まなかったね。たしかリコ君と言ったかな?」
「いえ、こちらこそすっかりお世話になりまして」
「ミアと仲良くしてくれると嬉しいよ、自分の家だと思ってゆっくり寛いでくれたまえ」
これからもまだまだお世話になるつもりでいるので、なるべく早い段階で彼らから好印象を勝ち取らねばなりません。
「そういえばお父様、リコちゃんは魔法が使えるんですよ」
「ほう、その若さで大したものだ!」
「……。いえいえ、それほどでも」
咄嗟に謙遜で誤魔化しましたが、ミアちゃんには私が魔法を使えることを口止めしておいた方が良かったかもしれません。魔法使いの希少性を考えると、無闇な情報の拡散は余計なトラブルの火種になりかねませんからね。
「そうだ、良かったら食後に腹ごなしの筋トレを一緒にどうだね?」
「……ええ、是非」
「うむ、では食べ終わったら早速、我が家自慢のダンベルコレクションをお目にかけよう。なかなか良いダンベルがあるのだよ」
「……ワー、タノシミデスネー」
はっきり言って気乗りしませんが、誘いを断って万が一気を悪くされても困りますし、ここは付き合うしかないでしょう。残念ながら私には自慢のダンベルの良し悪しは分からないと思いますが。
というか、仮にも客である娘の友人を筋トレに誘うってどうなんですかね。それとも、この世界の魔法使いにとってはそれが普通なんでしょうか?
まあ、昨日は魔法が使える事が分かっただけで強化後の身体能力がどの程度かまでは調べる事が出来ませんでしたし、トレーニングがてら魔法の性能試験をしておきますか。
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