はじめてのおとまり


 「まるで雑なコラ画像のようですねぇ」


 巨大なマッチョガールと化したミアちゃんの姿を見た感想です。


 おっとり風味の美少女顔が、バキバキにキレている筋肉質の身体の上にくっついている様は、なんというか、その……すごいですね。


 いえ、白状しますとこれは私の仕業なのですが。


 私自身も同じような状態ではありますが、客観的に見るとなかなかクるものがあります。自分自身に関しては、まるでキグルミでも着たような感覚で、正直自分の身体という気がしないんですよ。




 「まさか『全体筋力強化ミナマスール』まで使えるなんて……リコちゃんって天才だね!」


 正直怒られたほうがやりやすかったのですが、ミアちゃん本人が嬉しそうに自身の肉体がマッチョになったことを喜んでいるので、どう対応したものかと。


 あれから寝るまでの間、実験と称してミアちゃんの所有する魔道書(A4二つ折りサイズ)に載っていた魔法を片っ端から試し、結果、私は記載されていた全部の魔法を使うことができました。


 ミアちゃん曰く、魔法を使うためには魔力というエネルギーを消費するということですが(ベタな設定ですね)、連続で魔法を使っても特に疲労感や倦怠感もありません。この実験結果から、私の保有魔力はこの世界の基準に照らし合わせると相当に多いということが立証されました。



 「ちなみに実験の際は、大きめのタオルを身体に巻いていたので服が破れてはいませんよ」


 「誰に向かって喋ってるの?」



 『全体筋力強化』の実験をする時は、ミアちゃんにも服を脱いで裸タオルになるよう協力してもらったので、魔法の効力が突然切れても問題はありません。ふふふ、残念でしたね。



 それにしても、基本的にはテンプレに沿っている世界観だというのに、どうして筋肉方面の感性だけ明後日の方向にぶっ飛んでいるんでしょうか。この世界を創った神様がソッチ方向の特殊性癖持ちだったとかですかね?


 当面は衣食及び安全な環境の確保が最優先となるので優先事項は下がりますが、日本に帰る方法も探さないといけませんし、おいおいこの世界の文化習俗に関しての情報収集もすべきでしょう。







 ◆◆◆







 「さて、それではもう遅いですし、そろそろ寝ますか」


 「えぁっ!? う、うん、でもまだ心の準備が……」



 ミアちゃんは何を言ってるんでしょう?


 いえ、最初は客間でもお借りできればと思っていたんですが、実は私以外の他のお客様が数日前からこの家に泊まっているとかで他に空いたベッドのある部屋がなかったんですよ。


 私としては最悪雨風さえしのげればいいので、毛布を借りて床で寝ようかと思っていたんですが、ミアちゃんが自分のベッドで二人一緒に眠ればいいと言ってくれたのです。本当に良い子ですねぇ。



 「あ、あの……わたし、こういうの初めてだから、その……」


 「ああ、なるほど」



 友達が少ない彼女の事です。こうして友人が泊まりに来たり、隣で一緒に眠ったりするのも初めてに違いありません。そういえば先程から妙に顔を赤くしていますし、きっと慣れない事で緊張しているのでしょう。ここは私が緊張をほぐしてあげないといけませんね。



 「大丈夫ですよ、安心してください」


 「うん……や、優しくしてね?」


 「ええ、もちろんですよ」


 「あ、で、でもちょっとなら激しくても……」



 ただ同性の友人と寝るだけだというのに「激しく」とは何のことでしょう? 彼女の言うことは、たまによく分かりません。この世界独自の慣用句とかでしょうか。



 「……ふぁ」



 おっと失敬、小さな欠伸が出てしまいました。

 今日は色々ありましたし、思ったよりも疲れが溜まっているのかもしれません。明日以降に何が起こるか分かりませんし、少しでも睡眠時間を長く取って体力の回復に努めるとしましょう。



 「では、そういうわけで、おやすみなさ……ぐぅ~……」


 「……え? は、早っ、リコちゃん、ちょっと寝付き良すぎない!?」


 「……う~ん、むにゃむにゃ、もう食べられないでゴワス……」


 「寝言!? どんな夢みてるの!?」







 ◆◆◆







 「おはようございます」


 「……おはよう……」


 翌朝すっきりした気分で目覚めると、何故かは不明ですがリコちゃんから安堵と不満が入り混じったような視線を向けられました。


 よく見ると少々目が赤いですし、私がいた緊張のせいで熟睡できなかったのかもしれませんね。

 いやはや悪い事をしてしまいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る