「概念」なんて、どうでもいい!
ドンガスとイケメン勇者とに指示を出し終わった私は、単身、魔王の前に躍り出た。
こんなの、王のやることじゃないよね、ほんと。
でも、しょうがない! 勝って、国を守るのが優先な。
「おい! 魔王!」
そう、叫ぶ。我が国の言語が魔王に通じるかどうかは、謎だ。
「……誰ですか?」と、我が国の言語ではなく、同盟国語で、たどたどしく尋ねてくる魔王。
話通じるの? 片言だけど! どこで同盟国語を覚えたかも謎だけど!
「私は、この国の、王である!」
私も魔王に合わせて、同盟国語でそう返答する。魔王に対しては同盟国語な。覚えたぞ。
「王?」
魔王の興味は引けたようだ。こちらに向かって、少しずつ近づいてきている。前線の兵士達は、合図で左右に散開の上、後退させた。ざっざかざっざか!
よし。私は、近くの近衛兵から借りたはがねの剣を2本、両手に1本ずつ持って、左右に大きく広げ、前に出た。そこから、じりじりと少しずつ前進しながら、魔王をにらみつける。自分の体を大きく見せるのは、戦いにおいては、大事ですよ。
「さあ来い! 魔王! 私が、この剣で、お前を、倒してやる!」
あ、「これらの剣」と表現するべきだったな。複数形だから。今から言い直すのも恥ずかしいから、いいや、スルーで。
魔王の目に、嘲笑の色が浮かんだような気がした。ゆっくりと、こちらに向かってくる。
私は、おおおおお! と気合いの声を上げながら、魔王に向かってダッシュした。どどどどど!
魔王の氷ブレスの間合いに入る直前、私は足を止め、反転。脱兎の如く逃げだす。
うおおお怖えええ! 近衛兵! 勇者一行! 書き損じ姉さん! 助けてー!
「逃げる?」とでも言いたそうな雰囲気で、私を後ろから追いかけてくる魔王の気配。やばいってこれ! 私、走るの遅いんだって! すぐ捕まるって!
後ろの魔王は、今度は火を吹いたらしい。あっちー! あっちー! おしり燃える! かちかち王になる! これ、モーゼスの炎の魔法でもだめじゃん多分! 火で火は倒せねーよ!
火事場の王力を発揮して逃げる私。魔王は、火をボワボワ吹きながら私に迫ってくる。
至近距離まで魔王が来てる! やばい絶対絶命! その時。
「オーリャー!」
ゴイ───ン!
「ごがあああああ!」
魔王の絶叫がこだました。同盟国語で。
上手くいった!?
走り慣れずに、つんのめって転んだ私が、そのまま首だけ後ろを振り向くと、のたうち回っている魔王が見えた。魔王の後頭部には、鈍器が突き刺さっている。
上手くいった!!
玉座に座ってばかりで運動不足の私が、魔王に勝てる訳ねーじゃん。はなから陽動だっつーの。自陣におびき寄せたところを、後ろから攻撃な。王道には反するかもだけど。
はがねの剣じゃ魔王に効かないことは、既に判明している。
炎の剣も、作っている時間がない。というか、魔王も炎系っぽいことが、さっきわかった。
では、はがねより強い素材の武器なら?
城でモーゼス老から、説明をちゃんと聞いていたぞ? ミスリル製3Dプリンターだと。
そして、森田から、ついさっき学んだことがある。それは、本来は武器である盾を防具として、本来は防具である剣を武器として、それぞれ用いても良いということ。つまり、用途は自在なのだ。状況に応じて。
ならば、はがねよりも固い、ミスリル製3Dプリンターを、鈍器として用いても、問題ないだろう?
モーゼスは力自慢! イケメン勇者も、なぜかやたら大きな盾と剣を使っていた。そんな2人なら、人の背丈を超える程大きな3Dプリンターも、持てるんじゃないか? そう踏んだ訳だ。そして、大正解!
しかもこの3Dプリンター、箱状の機械ですよ? 「箱状」が肝。ラッキーなことに、箱の「角部」が、魔王のドタマにぶっ刺さっている。
ミスリルの直角の角部がザックリ!!
90度の威力を、どうぞご覧ください!
ぶっ倒れた魔王の体はピクピク状態。かすれた片言の同盟国語で、魔王は、こう聞いてきた。
「こ、これは剣ですか?」と。
私は、胸を張って答え──
「いいえ! 3Dプリンターです!」
一瞬早く同盟国語でそう答えたのは、私ではなく、イケメン勇者だった。
何だよ? ここ、カタルシス味わうとこじゃねーの? 王のオイシイとこ、横取りかよ?
いや、横取りじゃないな。現に魔王のドタマにプリンターぶっ刺したの、イケメン勇者達だからな。私はアシストに過ぎない。しかし、いつの間に3Dプリンターの同盟国語訳を考えていたんだ? このイケメン勇者は。あと、剣と3Dプリンターを見間違えちゃだめよ? 魔王さん。
「3Dプリンター……」
そう同盟国語で言い残して、魔王はがっくりと頭を地面に落とし、動かなくなった。伝説の3Dプリンターも、地面に落ち、動かなくなった。
いよっっしゃああああおらあああ!!
私も含めた、王国兵達の雄叫びが、大気を震わせる!
とはいえ、遠くにいる兵士は、何の雄叫びなのか、わからないだろうな。
「とりあえず良いことが起こったらしい」という雰囲気は、みんなに伝わっている模様。空気を読んで、数テンポ遅れで雄叫びを上げる、遠くの兵士達。雄叫びのウェーブだな。って、あ!
「魔王は討ち取った! 残る敵を一掃せよ! 最後まで気を抜くなよ!」
そうそう。これ言っとかないとね。正当な指揮権は、本陣にいる団長に渡してあるけど、現場判断ってことで。魔王は本陣で倒れているんじゃない。この場で倒れているんだ。
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