「魔王」という概念
王国謹製ストラップを背広の右ポッケにしまった森田を、イケメン勇者一行の戦列へと復帰させたあと、私は、王国兵達に、つまりは近衛団と地方兵の混成部隊に向けて、大音声を張り上げた。
「皆の者、よく聞け! 使い方を変えるのだ! 剣を攻撃に! 盾を防御に! 盾で敵の侵攻を防ぎ、剣を、敵の急所に突き刺せ!」
王国兵達は、きょとんとしたように見える。
「あの、勇者一行の戦い方を、参考にするのだ!」と言って、私は利き腕へと持ち替えた剣で、イケメン勇者一行の方角を指し示す。こういう使い方もあるね。剣には。
王国兵達に、指令の意味が徐々に伝わっていったようだ。やはり実例を見た方が、理解が早い。私は王国兵達に、大声で指示を出した。
「使い方、変えてくれるかなー?」
「オー!」
低い雄叫びと共に、盾と剣とを左右に持ち替える王国兵達。
「用途機能は大事、ということですな」と、傍らのモーゼス老。
そう思うなら、もっと早くアドバイスしてくれよ。ともあれこれで何とかなりそうだな。
でも、誰か忘れちゃいませんか? そう、魔王。
多分……あいつだ。明らかに他の魔物とは違う。見た目は、2本足の大型の魔物と大して変わらない。色も大きさも。でも、目力が違う。よく気付いたな私。
魔王に戦いを挑んだ王国兵は、あっさりはね飛ばされた。すさまじいパワー!!
「俺に任せろ!」と言って飛び込んだドンガスの刃は、魔王には突き通らなかった。動揺するドンガス。そこを魔王の腕が強襲! ドンガスも吹き飛ばされた。まずい! はがねの剣も効かない?
吹き飛ばされたドンガスを、イレーヌが上手く受け止めていた。勢いを吸収するように、イレーヌ自身も後ろに飛んで、やわらかく勢いを殺す。なにその
しかし、このままではまずい。剣が刺さらない。力でもかなわない。どうする?
……そういや、まだ残ってたね、やるべきこと! モーゼス老に話しかける。
「おい、炎の魔法! 剣に対してかけられないか?」
「剣に、ですか?」
「そうだ。盾ではなく、剣にだ。持ち手を布か何かで巻けば、
「そうかもしれませんが、炎の魔法は魔法秘密に属しますので……別室がないと……」
「そんなことを言っている場合か! 魔物の侵入をこれ以上許せば、城下町の女子供にまで被害が及ぶんだぞ? ここで勝つ方が重要だろ! 炎の魔法をかけてくれ、兵士達の剣に!」
モーゼス老は、「……しょうがないですね」と言って準備を始めた。
伝説の火打石で種火を作り、それを小枝に燃え移らせる。やがてそれを伝説の薪へと燃え移らせて……。
え? そこからやるの? 間に合わないよ! そんな悠長なことやってたら!
「だめだめ! そんなんじゃ遅すぎ!」わめく私。
しかし、どうする? 3Dプリンターで何か作るったって、3分とはいかない。炎の魔法、というか「実質的には、火起こし」より時間がかかるだろうし。
考えあぐねているうちに、森田がやられた。氷吐いたぞ、あの魔王。森田がアイスでカッチン状態! やばいやばい!
「モーゼス! その火は森田に使って!」
一心不乱に炎の魔法中のモーゼスに、そう指示を出す。
くそー、魔王が氷属性なら、火は効きそうなのに! 時間がないとか、もうね!
……あ! そうだ!
「団長! ちょっとここの指揮を頼む!」
私は団長を呼び寄せて、そう告げた。
「えっ! またですか?」
「すまんすまん! ちょっと行ってくる!」
私はきびすを返し、本陣の後方に置かれた3Dプリンターに駆け寄った。
「王様、どうなさったのですか?」そういぶかる近衛兵達。
「いいから私に続け! この3Dプリンターを、勇者達に届けるのだ!」と声をかけ、率先して3Dプリンターを運び始める私。一部の近衛兵達も、不審な顔をしながらも、手伝ってくれる。
モーゼス老は「何をなさるおつもりですか!?」と慌てふためいた。
「勝つんだよ、魔王に!」と返す。3Dプリンターの権利処理についてはあとで考えるから、今はちょっと貸してくれ。
3Dプリンターを載せた台には、大きな車輪が左右に3つずつ設けられており、私達でも、束になってかかれば移動させることができた。近衛兵達と私とで3Dプリンターを運び、前線からやや後退した付近まできたところで、ハアハアと息が上がっているドンガス達を見つけた。
「ドンガス! あとそこの勇者! ちょっとこっち!」
そう言って、こいつらに3Dプリンターを託す。使い方も、手早く指示する。
さて、頼むぞ、この辺にいる兵士達。作戦を伝え終わるまで、時間をかせいでくれよ。ちょっとの間でいいから。
何人かの兵士は、魔王のパワーでぼっかりと吹き飛ばされる。もう何人かの兵士は、森田と同様、アイスでカッチン状態に。
モーゼス! 炎おかわり! 誰か、そう本陣に伝えといて!
うちの兵士達に何てことすんだこの魔王!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます