「森田」という概念

 さて、翌朝。


 王国には青空が広がり、暖かで、絶好の篭手作成日和。モーゼス老が炎の魔法に使った別室も、しっかりと掃除済みでキレイ。魔物の群れも攻めてきている。


 ……


 ええええええ!?


 準備できてねぇよ! そっちから来んの? なにそれ!?


 かなりの数の勇者一行達が、隣の国とか海の向こうとかに、冒険の旅に出ていて、今は不在なんですが?


 北の山の向こうの強力な剣だとか、西の砂漠の盾だとか、南南東の特殊な生地だとか、手に入ったとしても、あと1ヶ月はかかるよ? 間に合わないじゃん!


 しょうがない。国を守るために、戦わなくちゃ! 魔物と! 今の戦力で。


 という訳で、近衛団と、王国内でまだモタモタやっていたイケメン勇者一行と共に、魔物の襲撃地点である、城の西側へと急行することにした。


 モーゼス老は、自身が開発した3Dプリンターを置いて行きたくないと愚図った。持って行ってもしょうがなくね?

 なんか、「私が現世に甦らせた3Dプリンターで作った武器防具の使用権は……」とか言い出した。めんどいなあもう。わかりましたよ。持って行って、本陣の後ろにでも置いておけばいいよね? 伝説の権利関係なんぞ検討してる時間は、今はないんだって。すぐ行かないと、魔物による犠牲者が増えるでしょ?


 鼻声の経理担当官と、書き損じの多い更新登録担当官は、当然ながら城に置いて行く。彼女達は、武官じゃなくて文官だから。あと、危険に巻き込みたくもないし。


 ◆


 大急ぎで城の西側に着いたら、地方兵が、何とか持ちこたえていた。

 近衛団と地方兵とを統合。団長率いる近衛団をトップに据えて、指揮系統を一元化する。要は、地方兵の各集団に対して、私の名で伝令を走らせたのね。


 混乱と、情報の錯綜とが収まってきて、わかったのは、近衛団が地方兵に合流することで戦況が安定してきた、ということ。兵士2~3人で、4本足の小型の魔物1体と、ほぼ互角というところか。


 魔物を前後から挟み撃ちにして、でボッコンボッコンぶん殴っている。特に近衛団の「はがねの盾」は効く。


 よしよし! それでいいぞ!


 4本足の小型の魔物の、角による攻撃は、みんながを使って上手くいなしている。


 よしよし! それでいいぞ!


 小型の魔物の力を、で横方向に逃がして、死角から2人がかりででボッコンボッコン!


 小型の魔物がふるう前足の攻撃を、1人の兵士がバックステップ等でかわして、その隙にもう1人の兵士が、後ろからでボッコンボッコン!


 伊達に訓練してないぞ、うちの兵士達は!


 しかし、2本足の大型の魔物には、この戦闘方法が効かないようだ。何せ、大きさも力も、大型の魔物の方が、兵士達より明らかに上。数人がかりで対峙しても、大型の魔物の侵攻を止められない。まずいぞ……。城下町まで侵入を許してはだめだ。女子供も暮らしているんだから。


「何としても、ここで食い止めろ!」


 そうげきを飛ばすが、そのための「方策」がない。


 ふと、イケメン勇者一行の方を見ると、なぜかそこだけは、大型の魔物に対しても優勢なように見えた。陣形の「くさび」の位置に突出して、大型の魔物に対処している。どういうことだ?


 少し高いところに設置した本陣から、遠視筒を使って目を凝らすと、ドンガスが、に持ったで、魔物の攻撃を受け止めている。イレーヌは、に持ったを、魔物の急所と思われるところに突き刺している。


「なんと! そんな使い方があるのか!?」

 3Dプリンターから離れたくないと言って私の傍らにいるモーゼス老が、私と同様に遠視筒を覗きながら、感嘆の声を上げた。


 イケメン勇者も、体に似合わない程大きな剣と盾で奮戦している。そんな物は支給していないんだが。そういえば訓練の時も持っていたな、どこで手に入れた? 飲み屋か?



 森田も、もじもじとしながら、戦列に加わっている。



 イケメン勇者一行のところは、大分余裕があるようだ。一方、突出したままでは、魔物による集中攻撃の的になるおそれもある。なので、まずはイケメン勇者一行を、他の兵士達の前線付近まで後退させた。

 次に、大型の魔物への対処は、ドンガスとイレーヌ、あとイケメン勇者に一旦任せて、森田を我が本陣に呼び戻す。なぜ大型の魔物に上手く対処できるのか、詳しく聞きたい。


 はにかみながら本陣にやってきた森田によると、

「せっかく剣が尖っているのですから、刺すのに使った方が良いと思ったんです」とのこと。


「それは、誰が思いついたんだ?」

「私です」と、森田。


 なるほど! 盾の重みではなく、厚みを使って敵の攻撃をストップする。そして、剣は、いなしよりもむしろ、殺傷力として敵への攻撃に用いる。良い使い方のように思える。現に、目の前で効果が出ているからな。


 それだ! ナイス森田! 王国謹製ストラップを進呈しよう!

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