「炎の魔法」という概念

 さて、6日が経ち、はがね製の武器防具が完成した。である「はがねの」と、である「はがねの」だ。


 完成したはがねの盾に、モーゼス老が炎の魔法をかける。これも魔法秘密で、別室でこっそりやらせて欲しいとのこと。


 別室帰りの、炎の魔法処理がなされた「はがねの盾」は、熱くて持てない。熱伝導率の関係で。


 だめじゃん!


 しょうがない。炎を熱く感じない「篭手こて」を作らないとな。炎で燃えず、熱伝導率も低いやつを。


 とりあえず、現在の成果である、はがねの盾と剣は、外庭の訓練場で、近衛団とイケメン勇者一行とに配備させた。篭手こては、おいおいな。


「じゅうぶんでさあ! はがねので、魔物の頭をぶち割ってやりますよ!」と、ドンガス。

 それが一番シンプル。大抵の生物は、身体の中心線上に弱点があるらしいから、まっすぐ行くと良いよ。


「あたしは、適当に受け流すねー」と、軽い口調でイレーヌ。

 そうそう。せっかくの白い肌に傷がつくといけないから、華麗に避けてね。男どもはサポートな! ちゃんと守れよ。



 森田は、はにかんでいる。



 さて、武器防具作成の功労者、モーゼス老についてだが。

 彼にはとりあえず「別室での炎の魔法」は自重してもらった。盾に炎の魔法をかけるのは、篭手こてができてからな。


 ちゃんと別室に出向いて、私自ら伝えた。私偉い!


 突然の魔法禁止の指示を受けたモーゼス老は、残念そうに口を尖らせ、鼻下の白ひげを右手の人差し指と親指で、もしょもしょとつまんでいた。よく見ると、ひげと同様に白化した頭髪の、右側のかたまりが一部だけ、くるんっ! くるんっ! とうずを巻いて立ち上がっている。寝癖にしても、なんでそこだけハッキリと丸まっているんだ? その他の部分は、なめらかストレートだぞ?


「その髪は、どうしたのだ? 炎の魔法で、チリチリにでもなったか?」


 モーゼス老は、やや仏頂面のまま答えた。

「先日、3Dプリンターをご覧に入れましたな。あの時、結着用の赤い魔法光が少しだけ外部に漏れまして。その翌朝、寝癖の形のまま結着してしまったのです」


 そういやあの時、プリンターの一番近くにいたのはモーゼス老だったな。しかし大丈夫か? そんなに危ない機械だったのか、3Dプリンターは。


「横開き蓋と、そのさらに外側の安全確保カバーとを少し開いた状態で稼働させたのが、原因と思われます」


 なるほど。漏れを防ぐための、蓋とカバーなのね。


 さて、篭手こてができたら、イケメン勇者一行にも、ボチボチ魔物退治に出掛けてもらわないとな。今度こそ、ようやく、勇者の冒険スタートというわけだ!

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