「盾」および「剣」という概念


 城の外庭では、近衛団と、イケメン勇者一行とが訓練をしている。壮観だ。

 訓練開始から3日目。武器防具を作り始めてから5日目にあたる。

 この日は公務も落ち着いていたのと、あと天気も良いので、ちょこっと視察に来てみた。


 そういえば、モーゼス老以外の、イケメン勇者の仲間達も紹介してもらってたな。ごめん、言うの忘れてた。


 大男ドンガスと、細身の女性イレーヌ、そして背広の森田だ。 


 大男ドンガスは、「力なら誰にも負けない!」と豪語する、見た目通りのタイプだ。いいぞ、わかりやすい!

「力自慢か。熊にも勝てるか?」と聞いたら、

「あくまで人間の中では、という話ですよ、王様」とのこと。

 魔物に対しては不明、と。メモったぞ、巻物に。まあそれが自然だな。生物には、能力の限界ってのがあるし。


 イレーヌは、長身で細身の女性。色白で、まるで神話のエルフのようだ。伏し目がちな表情が憂いを帯びていて神秘的。いいなおい! どこで知り合った? あとで教えてくれ。

「飲み屋です。飲み屋。勇者さんすぐ酔い潰れちゃってさあ」

 なんだよ。言動が見た目と違わね? ギャップ萌えってやつ?

 あと、イケメン勇者は、情報収集と称して、城下町で何やってたんだよ?


 森田は、明らかにそのへんの一般男性。これといって特徴が見えない。

 何を聞いても、一般的なフィエロ王国民っぽい回答しか返ってこなかったので、つまらなかった。とにかくもじもじしてる。それじゃだめだ。キャラが立たないぞ?

 中肉中背、背広に丸いグラサンという、いたって普通の出で立ち。事ある毎に特製ストラップを渡そうとしてくるところも、王国民として普通。

 もう少し何かないのか?

 

 さて、こうした面々を加えて、近衛団の訓練が行われている。


 近衛団とイケメン勇者一行とは、広場に互いに距離を取って整列した。城を背にした壇上から、近衛団長が号令をかける。


 団長の「構え!」の号令に応じて、兵士達および勇者一行が、利き腕に持ったを大きく頭上にふりかざす。


 団長の「攻撃!」という号令に応じて、兵士達および勇者一行は「オーリャー!」のかけ声。ふりかざした盾を、勢い良く打ち下ろす。

 より具体的には、布を巻いた大岩に、盾を叩きつける!


 「ボギョッ!」という重量感のある音を立てて、大岩にインパクトがかかる。

 おお! ドンガスは、練習用の岩を叩き割ったぞ? どんな力してんだ?


 攻撃パターンの多さは、実戦には大事だ。

 盾を横に薙ぎ払う訓練、横薙ぎの回転力を活かした二連撃など、規定の型を順番に試していく。


 次は、防御の訓練だ。防御の訓練は2人1組で交互に行う。


 攻撃側はいつもと同じ。盾を頭上にふりかざして打ち下ろす「基本撃」をくりだす。


 防御側は、相手が打ち下ろすを、利き腕とは反対側の腕に持ったで、身体の外側へと、やわらかく打ち払うのだ。


『盾の重さを剣でいなす』

 建国以来磨かれ続けた戦闘技術は、国を守る礎だ。後世の我が国の安泰に繋がる資産でもある。


 そして、イレーヌの打ち払いがやたら上手いんだが。「はいはい」「あーそれはすごいですねぇ」とか言いながら、軽妙に受け流す。


「女性を戦闘訓練に参加させるのはダメ! 危ないから!」と団長には事前に言っておいたんだが、「今後の旅のために」と自ら志願したそうな。真面目なお姉さん!

 そして、言うだけあるね。腕に覚えありな感じ。


 あと、イケメン勇者なんだけど、よくあんな大きな盾と剣を持てるな。見栄か? そんな筋力ありそうに見えないぞ?


 イケメンは、何か不思議な力を秘めてるってことか? 古代人の血とか。 まあいいや。古代より、今は戦わなくちゃ! 現実と!


 森田は、もじもじしている。

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