第5走 お姉ちゃんと不幸中の幸い中の不幸
詳シイ話は移動しながらしよう。
そう
近づいてきた三人に気づき、女性はメガネを直してから
「半日ぶりね、
柔和な笑みに、メガネの下の優しげな瞳。少し頼りなくもあるが柔らかい物腰は、新任教師を思わせる。実際、鈴鹿女学院に彼女の外見はよく溶け込んでいた。
だが、
彼女が警官であり、中でも警視庁捜査一課に配属されている刑事である事を。
「貴女が
「荷物はまとめてきてくれたわね? それじゃ、とりあえず車に乗ってくれる?」
そう
「これから、わたし達は八王子の方にある官舎へ向かいます」
「詳しい事情を話す前に、もう一度自己紹介をしておきましょうか」
そこで
「
ね、
「私達は警視庁刑事部捜査一課の《
「えす、しー、てぃー?」
「《
「ああ……」
しかし、設立時には大々的に発表された部隊だったように思う。
きっかけは五年前の《822事件》。
残暑厳しかった八月二十二日に、日本全国各地で同時多発的に発生した大量殺人及び破壊活動の総称である。犯人達は白昼堂々、次々と人を襲い、そして喰らった。彼女らは全員が半狂乱状態であり、中には破壊活動をする者まで現れる始末。都内で言えば国立競技場が餌食となり、建物の半分が文字通り吹っ飛ばされた。再建には五年もの月日が必要とした。
今なお影響を残す、死傷者数千人にも及んだ平成の大事件。
当初は組織的な犯行を疑われていたが、やがて犯人達には一切の繋がりがない事が判明。共通項は『女性である事』と『過去に肉体の一部を大きく損壊している事』。そして『失っていたはずの肉体が再生している事』のみ。
だが、事件はそこで終わらなかった。
それから程なくして『失った肉体が再生した』という事案が多発するようになったのだ。やがてそれは《
それは女性のみが発症し人を喰らいたがる病。
その異様な症状を、世間が《
急増する食人事件。
大きな社会問題となった《
英名は《Special-Capture-Team》。直訳するなら『特別捕縛班』となる。
言うなれば《SCT》は『
――と、
というのも、《822事件》から一年ほど経った頃から徐々に《
実際には《
そこでふと、
「でも、何でその《SCT》があたし達を? お姉とも知り合いみたいだし……」
「え?
「どういう事、お姉?」
《
そして、
「お姉、あたしをバカにしてるの?」
確かに突拍子もない話。「だが本当なんだ」と
「そうじゃなくて。どうしてあたしに話さなかったの?」
「あ、いや……あまり心配をかけたくなかっただけで、バカになんて、」
「ほら! ほら、ほら、ほら! やっぱりあたしを子供扱いしてる。あたしに話しても意味がないと思ってるから、そういう言葉が出てくるんだ」
取りつく島もない
昔はこんな刺々しい妹ではなかった。私の言う事をよく聞いたし、物わかりも良かった。いつも『
「姉貴ヅラもいい加減にして。何様のつもりよ。あの時も――」
「まァまァ、
と、
「責めるなら
「でも、それとこれとは――」
「
そう
仕方なく、
「それで、その《
「そうそう。本題はそこなの」
空気を切り替えようとした
「昨日うちに《舌の
「《舌の
しかし
「――《
「……現場を誰かが目撃したんですか?」
「いえ、そうではないけれど――」
無論、《
だが、
「それに見つかった場所が問題でね」
「
「私たち……の?」
「そ。名前とかは出せないけれど、いつも早朝にランニングしてる女の人知らない?」
知っている。
彼女も
「多分、そう。高校の時のジャージを着て出かけたって話だから」
問いを肯定された
たとえ知り合いではなくても、顔を知っている人間が殺されたという事実は大きな衝撃を与える。
それでね――と、眉をひそめて「あまり言いたくないんだけど」と前置きしてから
「状況から見て、彼女は
「脅迫?」
「逃げた《
「ええ、まあ……」
「しかも証拠になりかねない
話が見えてきた。
「わたしたちの考えはこう。――《
「捕まえて、私の話を聞き出してから……殺した」
「実際に彼女が
それは違う。
《
しかし、
「ま、そういうわけなのだヨ」
助手席から身体を捻り、
「これから君タチ二人は、
「警察署で、ですか?」
「いやいヤ」
「そんな場所デは、命が幾つあっても足りんヨ。都市伝説の言う通り《
「だから、わたし達が来たの」
「これから
「後輩に預かって貰います。整備屋に勤めてる子がいるので」
食い気味に
「ちょっと待ってください」
慌てて口を開いたのは
後部座席から少し身を乗り出して、前に座る二人へと詰め寄る。
「あの、この地図を見ると、だいぶ学校から遠いようなんですけど――朝は送って貰えるという事ですか?」
「えっと……何のことかしら?」
「部活です。夏休みは毎日、朝から練習があるので」
「ごめんなさい
「……そんな困ります! 秋の大会に向けて練習が、」
「
赤信号に合わせて車を止めた
「それでも、あなた達の命には替えられないわ。
「でも相手が《
短距離走者の肺活量で放たれる怒声が、車内を満たした。
一瞬の静寂。
その後に口を開いたのは
「それなら安心シテくれたまヘ」
「
空気が凍る。
――《
ついでに言えば昨晩、
絹のような白い前髪。その奥には、
「も、
氷結した空気を割って、悲鳴のような声をあげたのは
「そんな事、一般人に言っていいことじゃ――」
「何を言ウ。いズレ判る事ではなイか。それに不安を取リ除いてヤッタ方が良いに決まっておロウ」
「よ、余計に不安です! 《
信号が変わる。
「それは安心して。
と、
「マ、というわけダの。
眉をひそめる
それに対して
内心が、表情に出ていないかだけが心配だった。
これはマズイ。
恐ろしくマズイ事になった。
警察に護衛されるだけならまだしも、この二人は
そして彼らは皆、《
そんな奴等と、私と
これ以上の危機が他にあるだろうか。
《SCT》が追う、《
それは妹の
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