シロオニタケ(Amanita virgineoides)

 日本の昔話には「鬼」が登場するものがいくつかある。桃太郎には悪者としての鬼が登場するし、こぶとり爺さんにはちょっとコミカルな鬼が登場する。たしか一寸法師にも鬼が出てきたと思う。大抵の場合、物語の中で鬼は人間から恐れられている場合が多く、人間の敵対勢力だったり、人間に悪さやいたずらをしたりする。絵本など見てみると、そこに描かれる鬼たちはたいていビビットな体色をしており、その体色によって赤鬼とか青鬼とかいう風に分類されている。緑色のものや紫色のものなんかも見たような覚えがある。もっと大人向けの物語に出てくる鬼は、より人間らしく描かれていて、人間のように肌色や、あるいはどす黒い獣のような色の鬼も登場するが、白い鬼、いわゆる「白鬼」というのはちょっと見た覚えがない。


 というわけで、今回は「シロオニタケ」の話である。


 テングタケ科テングタケ属のきのこで、学名を「Amanita virgineoides」、漢字で書くと「白鬼茸」である。見た目から想像すればわかるかもしれないが、胃腸系と神経系の毒を有している毒きのこである。その容姿をみて「まあ、なんて美味しそうなきのこなんでしょう!」と思う人は比較的少ないかもしれないが、世の中にはいろんな趣味嗜好の人がいるので、一概に不味そうなきのこだとはあえてここでは言わないでおこう。あの刺々しいカサで口の中や喉の奥を刺激されたいと思う人だっているかもしれない。ちなみにこの刺々しいカサの突起は見かけによらず意外ともろく、少し強い雨などに当たるとすべて取れてしまうことも多い。名前や見た目に騙されるが、思いの外繊細なきのこであり、毒の成分もそれほど強くはないらしい。「な〜んだ、鬼なんて名前で見た目は厳ついのに、大したことないじゃん!」と思う方は試食にチャレンジしてみてはいかがだろうかと思う。


 さて、そういえば昔話では見かけない「白鬼」の話であるが、もし白鬼というものがいるのであれば、それはアルビノ種ではなかろうかと推測する。アルビノ種の動物は何かと神格化される傾向にある。たとえば白蛇だとか白虎がその代表的なものだが、だとすると、もし昔話に白鬼なる存在が登場することがあれば、体の色から言うとそれはおそらく人間に敵対したり人間から恐れられるものではなく、どちらかというと人間から崇められるような存在として登場してくるべきものでなければいけなくなってしまう。


「鬼子母神」のように鬼が神格化してしまう話もないわけではない。ただ誰が決めたのか知らないが基本的には鬼は悪者。だから鬼が出てくる物語としては、白鬼はちょっとまずいよねってことで、白い色をした白鬼は表舞台には登場してこないのではないだろうか。なにかちょっと、歴史に秘められた陰謀めいた予感がするのは果たしてぼくだけであろうか。


 というわけで、時間がきてしまったのできょうの講義はここまで、来週は「赤鬼と青鬼はどちらが強いのか?」についてみなさんと一緒に考えてゆきます。


 ではまた来週。

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