第18話 雀荘メンバーの備忘録⑤


 ■5、雀荘メンバーの備忘録雑記


 雀荘メンバーの備忘録①~④で、ある程度雀荘というものについてまとめたが、細かいところをつつけば、ほかの職業はない面白い部分がいろいろと浮上してくる。が、それを体系立てて論じるのはほかの誰かに任せるとして、以降は、ここに、雀荘やメンバーについて僕が思っていることを、ぼんやりと吐き出していくことにする。


 さて、すこし手前の話になるが、現状筆者はサラリーマンの真似事をして、なんとか糊口をしのいでいるのだが、もしも自分でなにか商売をするとなれば、やはり雀荘が良いなぁ、などと考えている。

「ひどい目を見たのに、懲りないヤツだ」と思う方々も多数いるに違いないが、その理由としては、


 ①雀荘のビジネスモデルほど優れている商売はないから

 ②雀荘を始めるにあたって、スタート資金が比較的少なくて済むから

 ③筆者が麻雀を嫌いだから


 の3点だ。それぞれについて、以下で解説していこうと思う。


 まずひとつめ、「雀荘のビジネスモデルほど優れている商売はない」というのは、先だって述べてきたように、雀荘は粗利率が非常に優れている(※ここにおける粗利とは、売上から直接的な原価を差し引いてものと定義する)。

 かかる経費といえば、ほとんど人件費と地代家賃くらいのもので、その人件費すらも、オーナーである自分自身が働けば、月20万くらいは浮かせられる。

 もちろん、三人打ちの雀荘である。正直な所感を申してしまえば、個人店で四人打ちというのは無理がある。メンバーは三人常駐させておかなければいけないし、ゲーム代のアガリも悪い。

 もしも四人打ちの個人店をやっていこうと思うなら、最低でもレートはピン、もしくはツーにして、ある程度のゲーム代を設定しなければ、割に合わないと考える。しかしレートを上げれば上げるほど常連客を作るのは難しいし、客飛びも激しくなる。大阪市内や歌舞伎町のように、いくらでも客が入れ替わるような立地にあればその心配もないだろうが、そうするとこんどは家賃が跳ね上がるから、やはり現実的ではないだろう。

 その点、三人打ちならば、0.5程度のレートでも、3000円~4000円/卓時間の売上を叩き出してくれるし、客飛びの心配もさほどする必要はない(近頃では、0.5すらも大きいと感じているのか、0.3や0.2のレート設定の雀荘も続々と出ているが)。

 雀荘のビジネスモデルは、最優のひとつであると筆者は信じるにたる理由は、ほかにもある。

 それは、客の面倒を店側があまり見ないでも済むことだ。特にセット業務に関していえば、もちろん店舗差はあるが、ほとんどほったらかしのような店だってある。

 来店時に卓に案内して、卓の設定をして、あとは終了まではノータッチ。飲み物もセルフサービスにしてしまえば、客側から声を掛けられることはほとんどない。しかしそれでも、客側は大本命である「麻雀を打つ」というサービスを享受できている訳だから、100点満点中60点~80点の満足は得られているはずだ。

 むろん、そんな点数では、90点の店が出てきてしまった時に客を取られかねないが、そこはほかの部分で補えばいい(例えば、セット料金が安いとか、飲み物飲み放題とか)。

 手がかからない、というのは、お金では測れず、目には見えづらいコストではあるが、長く商売をやっていくというのならばやはり無視できない部分ではある。働く側にしたって、忙しいよりかは楽の方が良いに決まっている。

 ちなみに、筆者が雀荘で働いていたころは、フリーが終わり、セット客も常連だけになった時には、もれなく店のソファで眠っていたほどである。しかしそれでも客側は麻雀を打てるし、筆者に給料も出るし、店側も利益が上がるし、win-win-winというやつである。


 続いて、ふたつめの理由、「雀荘を始めるにあたって、スタート資金が比較的少なくて済む」について。

 雀荘を始めるにあたって、どのくらいのお金がいるか。

 ぶっちゃけていえば、5,6卓くらいの店を始めるつもりならば、500万円もあればおつりが出る。卓の購入費だって、新品の最新物を買えば高くつくものの中古を買えばそれなりに抑えられる。

 そして、さらに金額を抑える、いわば裏技めいた方法も存在する。

 数十年前に比べて、麻雀の流行は下火である、とは様々なところで囁かれている話ではあるが、それは実際その通りで、どんどんと業界の規模は小さくなっている。経営不振で店をたたむ店舗も少なくない。

 それから、麻雀が大いにブームを謳歌していたころの雀荘経営者といえば、当時30~40歳。いまや60、70歳という人も多く、店舗経営に難を感じて店をたたむ人もいる。

 ここまでいえばもう想像できるだろう。そういう店舗を買えばいいのだ。

 特に、経営不振から首が回らなくなって店舗を手放すことを決意した元経営者たちは、キャッシュに困っていることも多く、即金一括払いが可能なら、希望売却価格から値切ることもできる。5,6卓程度の店ならば、200万ほどで買収できるだろう。

 とはいえ、仮に200万で購入できたとしても、実際に店を始めようと思えば、そこからまだすこし経費がかさむ。不動産のまき直しや、営業許可証の発行などで2,30万。それに、壁紙の張り直しなどの内装リフォームも含めば、やはり300万程度は用意しておきたい。

 じゃあ、300万用意して、いざ雀荘経営スタート! そうは問屋が卸さないのが現実である。

 300万円の貯金をすべてはたいて、雀荘経営を始めたとすれば、その時点での貯金はもちろん0である。つまりは、ノーマネー、ゲルピン状態。そんな状況でお店を始めたとして、果たして人間は生きていけるのだろうか?

 もちろん、答えはNOである。人が生きていくためには、仙人でもあるまいし霞を食って飢えをしのぐ訳にはいかず、暑さ寒さに耐えるための衣服や住居も必要だ。

 いかに最小限、最低限にまとめたとしても、最低15万円のキャッシュは月に必要となってくる。仮に、もっともっと抑えたとしても10万円が限度だろう。

 さらにそれに加えて、持ち物件でもない限り、不動産家賃が発生する。家主に相談するなりなんなりして、頑張って交渉したとしても、5,6卓の店を置くならば、やはり15万はくだらない。


「スタート時に蓄えがなくっても、お店を始めたんだから、売り上げがあるじゃない!」


 なんて人は現実を直視した方が良い。オープン初日から、まともな売り上げが発生するなんていうのは夢物語だ。一ヶ月の間にノーゲストの日もあるだろうし、なんだったら、自分が本走に入って、その日の売り上げをぜんぶ飛ばしてしまうなんていう恐ろしい可能性だって否定できないどころか、むしろ頻繁にあるといってもよい。

 つまりは、しばらく生きていく上で必要最低限のお金も用意しておかなければならない。25万円/月として1年間分=25万×12か月=300万円の蓄えが望ましいところである。


 そういうことだったら、やっぱり初期資金として500万円はいるじゃないか! と憤るはもちろんであるが、自分で用意するキャッシュに関しては、やはり200万程度あれば事足りる。

 ないのならば、あるところから引っ張ってくればいい。誰しもの身近にあって、かつお金のあるところといえば……それは銀行である。銀行から融資を受ければいい。預貯金額と同額程度の金額であれば融資してもらえるだろう。


 ただし、それには条件がある。


 銀行は貸付額をノルマとして課されているものの、貸し倒れしない、焦げ付かないところに貸し付けたいのは当たり前の話。すなわち、銀行からの信頼が必須である。

 ではどのようにして銀行からの信頼を勝ち取るのか。

 明確なビジョンを打ち出す? 熱弁で以て融資担当者を口説き落とす?

 答えは、預金実績である。あなたが、それまでに「どのように」そして「いくら」貯金したかを精査するのである。


 預金として200万円あれば200万円を貸してくれるというのなら、適当に口座を作って、そこに200万円放りこめばいい、というのは甘い甘い。タピオカミルクティーよりも甘い。仮にあなたが融資担当者として、そんな人間にお金を貸したいと思うだろうか?

 いままで預貯金実績もないくせに、急に200万円を預金したところで、競馬かなにかで当てたあぶく銭だろう、と門前払いを食らうのがオチである。


 わざわざ「どのように」と書き記したように、銀行は、あなたの人間性を預金の仕方から見定めている。いきなり一括200万円を口座に入れる人間よりも、2年間かけてコツコツと200万円を貯めた人間の方が、信頼に値するのは言うまでもないだろう。

 やはり人間、コツコツと積立が大事である。それはお金も信頼も。傍から見れば、まともでない雀荘メンバーとて、定期的に預金を作っていけば、銀行から見れば信頼に足る人間となるのである。


 ちなみに僕は預貯金なんて、当然のように0である。ふつうの雀荘メンバーが貯金を持つなんて、まぁほとんどありえない話である。むしろ、お店へのアウトで、総資産に換算すればマイナスなんてこともありふれていることだ。


 やはり、雀荘という仕事はクソだからお前らは絶対にメンバーにならない方がいい。

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