第17話 雀荘メンバーの備忘録④
■4、雀荘のメンバーという職業
備忘録③にて、雀荘の従業員すなわち「メンバー」について触れたので、すこし掘り下げてみたいと思う。
改めて言うまでもないが、メンバーは店に来た客が不都合なくサービスを享受するためにサポートする役割の人間で、飲み物が欲しいと頼まれれば持っていき、麻雀を打つ面子が足りないのならば牌を握る。
そしてフリーの麻雀の成績が給料に反映され、勝てば勝った額だけ給料が増え、負ければ負けた額だけ給料が減る。
「勝てばいいじゃないか」という台詞をよく耳にするが、これは生存バイアスによって選別された言葉で、負け犬の僕は大っ嫌いな言葉だ。そもそもとして、メンバーがフリーで麻雀に勝つのは非常に難しいのだ。
その理由はいくつかあり、まずは実際の麻雀のプレイの話をすると、ひとつは「打牌制限」がある。「引っ掛けリーチ」は禁止だとか、「順位の変わらない和了」は禁止だとか、いろいろあるが、これのためにメンバーは麻雀を打つのにも苦心している訳だ。この禁則が、店側のルールとして明示されている場合もあるし、なんとなく不文律で控えている場合もあるが、どちらにせよ、メンバーは行動に制限がかかったうえで麻雀を打っている。
例えば仮にメンバーの打牌制限が一切ない店で働いていたとして、しかしそこでなんでもかんでもやっていいという訳でもない。同卓している客の不興を買い、客が麻雀を打つのをやめて卓が立たなくなってしまえば、当然店長やオーナーからの大目玉は免れえず、働きにくくなってしまう。
そして次に、卓上以外での話をすると、メンバーは集中して麻雀を打つことができない。手前ばかりの話で申し訳ないが、常に人員の不足している地方雀荘では、従業員がひとりしかいない、という状況も往々にしてある。そんな場面で、自分が本走(メンバーとして麻雀を打つこと)になっていれば、フロアには客の面倒を見る人間がいなくなってしまう。しかし、ドリンクを頼まれればドリンクを持っていかなければならないし、新規のセット客が入店すれば卓まで案内せねばならない。そのたびに麻雀のプレイをいったん止めて、席を立ち、ドリンクを作り持っていくのだが、果たしてそれで正常の思考で麻雀をできるかといわれれば、ほとんど不可能だ。
リーチがかかっていることに気付かず放銃してしまうこともあるし、ちょっとした牌効率のミスも頻繁に現れる。
しかも、新たにフリー客がやってくれば、自分の成績がどのようなものであれ、その次の半荘からはその客に席を譲らねばならない。勝って抜けれれば重畳だが、負けて抜けることになれば最悪だ。自分の気持ちとしてはここから盛り返そうと思っていても、必ず席を立たねばならないし、その日はもう牌を握らないかもしれない。
そういう訳だから、メンバーとして麻雀を上達する時には、「負けない麻雀」の習得を、僕としてはおすすめする。僕がメンバーとして働き始めた時、上長にもそう教わった。
具体的な技術を述べるつもりはないが、すくなくともメンバーとして麻雀を打つのは難しい、ということだけは確かなのだ。
そして雀荘メンバーが麻雀を打つ不幸はもうひとつある。それは、本走中は時給が減る、という点だ。どういうことか、というのを以下に説明すると、
店のフリーのゲーム代が、一卓一半荘あたり1000円だと仮定すると、当たり前だが三半荘で3000円だ。これを三人で割ると、ひとりあたり1000円の負担となる。三人打ち麻雀は、一半荘あたり平均15分~20分で終了するというのはすでに言った通りで、ということは、一時間あたり三半荘が終了することとなる。
……もうお気づきだろうか。メンバーが本走した場合、およそ一時間で1000円の負担が生じているのだ。従業員の給料が1000円だとすれば、麻雀を打っているだけで時給相殺となってしまう。
メンバーが本走していることに関しては、同連載内の「第2話 フリーの闇」や「第3話 3人打ちの闇」あたりに詳しいので、興味があればまた読んでみるといいだろう。
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