第15話 雀荘メンバーの備忘録②


 ■2 関西の雀荘の実情


 雀荘、麻雀店といえば日本全国津々浦々にあるが、麻雀の特徴として、—―それが良きにつけ悪しきにつけ――統一ルールが定められていないというものがある。例えば将棋ならば、全国どこで指しても、あるいは海外でさえも、玉を取ったら勝ちであることは変わらないし、初手のみ歩が2マス進めるということもない。

 が、麻雀というのは、日本という狭い地域の中でさえも様々なバリエーションのルールが存在し、地域ごとにそれが一般化し定着してしまっている。例えば、東京新宿歌舞伎町ならば、東風ご祝儀麻雀、中国四国エリアでは雉打ち麻雀、というふうに。

 そして関西は大阪では、三人打ち麻雀が主流だ。どのくらいメジャーかといえば、大学生が麻雀を覚える時には、まず三人打ちから、というくらい。若い世代には、萬子なんてテレビやネットの中でしか見たことがない者もいる。

 そんな三人打ち麻雀だが、大阪の一般的なフリー麻雀のルールでは、全赤華アリ(もしくは北抜き)の35000点持ちが基本だ。相手の顔面をドラを抱えたリーチでぶん殴るゲーム、なんてふうに僕はよく表現している。

 さて、ここで僕が言いたいのは、全赤華アリの三人打ちが麻雀の中で最も優れていて面白い、などということではなく、雀荘という店舗の経営面から見たお話だ。

 雀荘を経営する上で、三人打ちフリー雀荘は、四人打ちのそれよりも優れているのは間違いがない。


 その理由は、

 ①常駐させておくメンバーが最低ふたりでいい

 ②一半荘あたりの消化スピードが速く、ゲーム代効率が良い

 という2点だ。


 それぞれ解説すると、①常駐させておくメンバーが最低ふたりでいい、というのは、人件費の観点から見た時。四人打ちフリーでは、ふらりとお客さんがひとりでやってきたとき、すぐにゲームを始めようと思えば、すくなくとも三人のメンバーがいなければ卓が立たない。

 一方で、三人打ちの場合はふたりでいいのだから、人件費が2/3に圧縮されているのだ。


 そして②一半荘あたりの消化スピードが速く、ゲーム代効率が良い、というのは、東南戦の四人打ち麻雀の場合、一半荘が終わる時間は平均40分程度。長ければ1時間くらいかかることもある。

 一方で、三人打ちの場合はだいたい15分アベレージ。早ければ1時間で5半荘ものゲームが終わっていることもある。

 仮に四人打ち東南戦のゲーム代が1600円、三人打ちが1000円とした場合、前者は一時間あたり3000円程度だが、後者は4000円近く収益が上がることとなる。

 人件費と収益効率、ふたつの面から、雀荘経営の上で三人打ちが優れているのは、以上の通りで、そこからさらに一歩引いて、そもそも「雀荘」という商売が、ほかの飲食店やサービス業に比べ、どのようなメリット・デメリットがあるのかもまとめておきたい。

 ふつうの飲食業――例えばあなたが居酒屋を経営するとして、そうなった時、どのような画を描くだろうか。利益が〇〇円、原材料が□□円で、人件費が××円……というように考えを巡らせるだろう。実際、家賃光熱費や広告費に雑費など想定しておかなければならないことはほかにもたくさんあるが、大まかに言えば、この3つの要素が、個人が経営しておく上で押さえておくべきポイントだろう。

 まずは利益。自分が望む取り分を確定せねば、売り上げ見込みも立たないし提供する料理の単価も決められない。たまに、先に利益を決めずに料金などを設定してしまう人もいるが、これをした場合にどうなることが起こるかというと、商品・サービスが薄利多売となり、忙しいのに利益が上がらないというような状況に陥りかねない。商売をするために肝心なのは、まずは利益を決めることだ。利益の上に経費を載せることで売り上げが決定し、そこから料理の単価、客単価を定めるのだ。

 ……すこし話が逸れたが、飲食店の場合、押さえておくべきポイントは利益、原材料、人件費の3点というのは先述の通りで、一般的に売り上げの内、「3割が利益」「3割が原材料費」「3割が人件費」が平均的な割合だと言われている。月に50万円の利益を上げたいのなら、概算月間で150万の売り上げが必要だ。すなわち、一日当たり5万円の売り上げを目標としたとき、ここでようやく客単価や料理の価格帯を決定することができるわけだ。—―だいたい客単価は5000円にして、一日10人のお客さんに入ってらうことを目標としよう、という風に。

 さて、そこで話は雀荘に戻る。雀荘がなにを提供することで利益を得ているかについては、もはや言うまでもなく、卓と牌、場合によっては面子の貸し出しだ(ドリンクや飲食の提供は、まさしく”サービス”でいまは除外する)。

 そのサービスを提供するために生じる経費といえば、……人件費のみだ(自動卓などの設備も、減価償却的に考えれば経費だが、居酒屋の項でもキッチンなどの設備費には言及しなかったので除外する)。

 つまり、雀荘を経営する上では、売り上げの3割を占める原材料費はなく、ほとんど人件費だけの出費で事足りるのだ。上述の平均的な割合に当てはめた場合、なんと利益は売上の6割に上るのだ!

 そういう訳で、僕は個人的な恨みや怒りは別として、雀荘経営は飲食店などに比べて有利であると考えている。なにしろ、経費が人件費だけで済む上に、廃棄などのロスもない。


 ……が、現実にはそんなうまい話はない。雀荘の経営はどこもかしこも苦しいのが実情だ。次章では、その原因と麻雀店の闇についてまとめていきたい。

 

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