第14話 雀荘メンバーの備忘録①
とある大阪の片田舎の雀荘でメンバーとして働くことおよそ三年。ついに辞職することと相成った。大学在学中から働き始め、様々な経験をさせてもらい、人間的にもずいぶん成長を感じ、感謝がない訳でもないが、それでもやはり「散々な目に遭った」という悪態を吐くほかない。
とはいえ、三年という年月を雀荘メンバーとして過ごし、この時間や体験をなかったこととするのももったいない。という訳で、備忘録として回顧録として、言葉を残していこうと思う。
■1 雀荘・麻雀店の仕事について
一般にいう雀荘――法的には「まあじゃん屋」と記される営業を行う店舗は、日本各地至る所に存在する。そんな中、僕は大阪とある片田舎で、「三人打ち麻雀」のメンバーとして働いていた。ネットや漫画、ケーブルテレビなんかでよく目にする「四人で行う麻雀」との違いはここでは省くとして、……では、実際にこれらの店舗はどのような仕事、商売をしているのか。
小売店ならば商品の販売によって、飲食店ならば料理とそれにまつわるサービスによって、金銭という対価を得ている。そして雀荘は、基本的には二種類のサービスを提供することによって利益を得ているのだ。
それは、①セット業務と②フリー業務と業界内では呼ばれるものだが、法的な区分はない。というよりも、法的には②フリー業務というものは存在すらしていないのだ。
①セット業務は、麻雀を遊戯する上で必要な道具と場所を提供する代わりに利益を受け取る。要するに、卓と牌を貸して代金を頂戴しちえる訳だ。そしてそこにドリンクなどのサービスも付属する。その際に発生する料金は、一卓一時間あたり2400円+税(=2592円)が上限と風営法により定まっており、たいてい、1000円~1200円くらいがよくみる価格帯だ。
気の合う仲間と、あるいは職場の先輩後輩と、もしくは営業先の方々と連れたって雀荘の暖簾をくぐれば、卓と牌を用意するから後は勝手に麻雀をどうぞ、という具合。店舗によってはフリードリンクサービスがついていたり、雀荘のオーナー手作りの料理が食べられたりもする。
ちょっとした小咄だが、いまでこそ「雀荘BAR」とか「居酒屋雀荘」みたいな看板を掲げて営業をしている店があって、中に入ればビール片手に麻雀を楽しんでいるおっちゃん連中がいるものの、数十年前までは雀荘ではアルコール類の提供が禁止されていた。これについては、後ほどまた詳しく書き記そうと思う。
そして②フリー業務とは、いわば、法的には正しく認識されていない雀荘の「裏稼業」的なもので、牌と卓を貸し出すことに加えて、さらに様々なサービスが付与されている。そのため、まず時間単価が大きく違う。少なくとも、1.5倍~フリー業務の方が時間単価が高い。
ではフリー業務とは実際にどのようなものなのか。
例えば、あなたがとてつもなく麻雀を打ちたいとして、方々に連絡を取ったがだれひとりとして捕まらなかった。しかし麻雀を打ちたい。そんなときに登場するのが、このフリー業務だ。「おひとり様歓迎!」みたいな看板を見たことはあるだろうか。その「おひとり様」向けサービスと考えてもよい。
そのような「おひとり様」が複数人集まれば麻雀が打てる。ならば集めてあげよう、というのがフリー業務で、見知らぬ人同士で麻雀が打てる場を提供するのだ。その際に生じるであろう諸問題を解決し、円滑に麻雀を遊戯できるように干渉、監督もする。
見知らぬ人同士が麻雀を打つ上で最も障害となるのが、「ルールとレート」だろう。ルールは言わずもがなとして、レートとはなにか。まぁ要するに、「どのくらいお金を賭けるのか」だ。
麻雀が世間様から敬遠される理由のひとつとして、その賭博性は避けては通れない。実際、金額の多寡は別として、友達同士で麻雀を打つ時にお金を賭ける人は少なくないだろう。
が、お金を賭ける以上、負けた人が「払えない」だとか「いまは手持ちがない」だとかそういったことを言い出すのもまた必定。フリー業務にあたって、店側は共通のルールと共通のレートを制定し、おひとり様が麻雀を打てる場を用意し、その上で、それらのお金のやり取りに関する問題なども解決する。その代わり、ふつうに卓と牌を貸すだけよりも多くの対価を要求する、という訳だ。
セット業務では、卓と牌を貸し出すだけだったので、時間あたりで料金が発生するが、フリー業務では一半荘(ゲーム)あたりで料金を請求される。その額は、テンゴと呼ばれるレートで、だいたい1500円~2000円。テンピンと呼ばれるレートで、2000円~2500円程度。この「テンゴ」「テンピン」という言葉については、ふたたびどこかで触れたいと思う。
ここで再び小咄であるが、このフリー業務、実はふたつの違法性を抱えている。ひとつは当然「賭博」ということ。参加者は賭博罪に当たるし、店側は「賭博開帳図利罪」にあたる。もうひとつはなにか?
セット業務のところで述べたが、一卓が一時間あたりで叩き出せる売り上げは2400円が限度だ。一方でフリー業務では時間あたりで料金を取るのではなく、一半荘あたりで料金を取るというのも先述通り。しかしこの「一半荘あたり」が曲者で、そのゲームの性質上、20分で終わることもあれば10分で終わってしまうこともある。例えば、一時間内に二半荘終了してしまえば、少なくとも3000円以上のゲーム代(=料金のこと)が発生する。法定限度の2400円を超えてしまう訳だ。
しかしまぁ、一時間あたりに一卓がどのくらいのゲーム代を売り上げたのかは検証しようもないから、そうそう問題になることでもないのだが、過去に一店舗、東京都の雀荘がこの件でしょっ引かれた例もある。
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