第9話 「ないとこ」でもいいじゃないか!
さて、雀荘のお話から少し脱線してしまったが、再び麻雀屋のことを少しばかり語りたいと思う。
今回はメンバーの打牌制限のことについて、またお話ししたい。
打牌制限というと、いつぞや書いた「ひっかけリーチ」が最たるものだが、メンバーとして麻雀を打っていると、もっと細々ととやかく言われるのだ。
と、その前に、この話をより分かりやすいものとするために、「ウマ」と「オカ」についてちょっと説明しようと思う。
「ウマ」とは、日本の麻雀において、半荘終了時の順位に基づいて支払い・受け取りされる点数のことである。ウマにはいくつかの種類があるが、通常は単にウマといえば順位ウマのことを指す。(wikipedia ウマ(麻雀)より抜粋)
例えば、4人麻雀において、34000-28000-20000-18000の決着が付いたとしよう。以前にも少し解説したが、麻雀の成績は、ここから更にスコアを動かして決定する。
それが「ウマ」であり、順位に基づいて支払い・受け取りされる点数である。
ふつうのレート0.5の4人麻雀のフリー雀荘なら、「ゴットー」と呼ばれる「ウマ」が設定されていて、
「3着から2着に5000点分」、「4着から1着に10000点分」スコアが授受される。0.5なら、それぞれ250円分、500円分となる。「5000-10000」だから、ゴットー。
だから、1着のもらえる金額は、実際のスコアよりも多くなる。まぁ、ちょっとしたご祝儀というべきか。
続いて、「オカ」とは、トップ賞のことである。おいおい、順位賞もあるのにトップ賞まであるのかよ、と思う方もいるかもしれないが、まぁ、博打なんてこんなものである。
「25000点配給原点の30000点返し」なんて言葉を聞いたことがないだろうか。一見、呪文か経文のように見えるが、これが「オカ」の正体である。
例えば、ゲーム終了時点でのスコアが25000点であったとしよう。おお、±0だから、ゲーム代を負担するだけで済むじゃないか。とはならないのだ。
「25000点配給原点の30000点返し」ルールにおいては、なんと原点は30000点に設定されているのだ。頭の上にたくさんの疑問符を浮かべている諸兄も多いだろうが、案ずることはない、僕も初心者の頃はよく分からなかった。
要するに、すべてのプレイヤーは、5000点マイナスの状態からスタートしている、と思ってもらえばいい。それじゃあその5000点はどこへ行くのか、というと、トップの下へ贈呈されるのである。ゆえのトップ賞。これが「オカ」である。
さて、それでは「ウマ」「オカ」を実際に絡めた支払いについて少し見ていこう。
以前、第2話「フリー雀荘の闇」にて、各プレイヤーの平均収支をご紹介したが、その正確な計算方法という訳である。
※レートは0.5の「25000点持ち30000点返し」「ゴットー」とする。
まずは4着。8000点だったとしよう。
30000点返しなので、スコアは「-22」。そこから更にウマが発生するので、マイナス10されて、「-32」が最終スコアとなる→-1600円-300円
ゲーム代)=▲1900円
次に3着。14000点だったとしよう。
同様にして、「-16」は「-21」→-1050円-300円=▲1350円
続いて2着。32000点だったとしよう。
30000点返しなので、スコアは「+2」。そこから3着のウマが入るのでプラス5されて、結果「+7」→+350円-300円=+50円
トップはこれらをすべてひっくるめた額→+3200円-1200円=2000
で、ゲーム代が1300円だったり1500円だったり。結局手元に残るのは、1000円少々。
さて、こんな具合で、一体だれが勝ちきれるというのか。+1000円なんて、一度4着を取ってしまえば吹き飛んでしまうような額である。
むろん、実際のフリー雀荘では、「トバシ」(※1)やチップ(*2)などが発生するので、1着や2着の収支はもう少し大きくなりがちだが、まぁ、勝てやしないのはお分かりだろう。
話を戻そう。さて、ここで3人麻雀の話に入る。
3人麻雀においては、「オカ」は4人麻雀同様だが、「ウマ」が少し具合が違う。というのも、「着差ウマ」ではなく、「沈みウマ」が主に採用されているのだ。
「沈みウマ」とはなんぞや、というと、原点に達していなかったもの全員に、同様に課されるウマのことである。
3人麻雀の場合、多くは「35000点持ちの40000点返し」である。つまり原点は40000点。40000点に達していなかったプレイヤーに対して「ウマ」が発生する訳だ。
そしてこの「沈みウマ」がなかなか大きい。だいたい、点棒10000点分か20000点分なので、500円もしくは1000円分である。
再び具体的な計算をしていこう。
※レートは0.5の「35000点持ち40000点返し」「沈みウマ10」とする。
まずは3着。4000点としよう。
原点からの差分「-36」なので、沈みウマを付けて「-46」→-2300円-300円(ゲーム代)=▲2600円
次に2着。26000点だったとしよう。
原点からの差分「-14」なので、沈みウマを付けて「-24」→-1200円-300円=▲1500円
トップの収入は4100円。そこからゲーム代が1000円だとか取られる。
まあ、これなら立て続けにトップを取れば、なんとか稼げないこともない。
さて、ここで仮に2着が41000点だったらどうなるのか。
原点からの差分「+1」なので、沈みウマが発生せず「+1」→+50円-300円=▲250円
おやおや、ならば46000点の2着だったりするとどうだろうか。
聡い皆様ならばお気づきであろう。見事±0となる。
これを、雀荘によっては「ないとこ」(=支払いも貰いもないところ)という。
案外、これがメンバーにとっては重要だったりするのだ。
メンバーというのは、いつ麻雀を抜けなければならない時が来るか分からない。この半荘かもしれないし、次の半荘かもしれないし、あるいは朝まで延々と打つ羽目になるかもしれない。
客として麻雀を打っているなら、出入りのタイミングは自由なので、仮に1着を目指してトップを取れなくても次がある、となるが、メンバーはそうもいかない。
ゆえの、「ないとこ」が大事、なのである。
いつとれるか分からんトップよりも、±0を選択することも、時には必要のだ。
……
…
いろいろと好き勝手お話ししたが、「じゃあそれと打牌制限になんの関係が?」となるかもしれないが、これが関係オオアリなのである。
メンバーとして麻雀を打つ際に、特にオーラス、注意せねばならないことがある。それは、「トップにならない和了。もしくは、トビ回避以外の和了は禁止」というものである。要するに、場を乱すな、という意味であるが、これがなかなか曲者で、実に実に鬱陶しい。
例えば、自分が19000点の子、トップが60000点の持ち点状況でオーラスに突入してしまったとしよう。この場合、もうメンバーができることはほとんどない。41000点差を覆す和了など、役満ツモor直撃以外には存在しないのである。むろん、それじゃあ役満狙えばいいじゃない、となるかもしれないが、それこそ場を乱す行為に違いないので、客の顰蹙を買う。
ただただ、他のプレイヤー二人がアガるのを待つばかりである。もはや針の筵である。
それじゃあ点棒状況を変えて、自分が38000点の子、トップが66000点としよう。もう一人のプレイヤーは当然残り1000点である。
トップとの差は28000点。倍満ツモでも届かないし、ハネ満直撃でも届かない。倍満直撃なら届くが、そうそうたやすく倍満の手など作れっこないし、いわんや三倍満。こちらが大物手の気配を見せてしまえば、たやすくオリを決め込まれる。
と、ここで気が付く。
満貫ツモで、スコアは46000点(ないとこ)に達し、その上、トバシ(*1)までもらえて、収支としては少しプラスだ。もう一人のお客には悪いが、ここはひとつ、僕の生活のために飛んでもらおう。
そうは問屋が卸さない。
この満貫ツモは、順位を逆転するに足りない和了だからである。
ゆえに仮にツモってしまったとしても手牌を前に倒せない。万が一、倒してしまったら、客からの顰蹙は請負である。
そして仮に倍満聴牌をして勢いよく先制リーチを掛けて、結果ツモってしまった場合も、あまり良い顔はされない。
「トップがリーチを掛けてから、オリれない状況になってから追っかけリーチを掛けろ」なんていう訳だ。
あまりにも馬鹿げているとは思わないかしら。こっちは生活を賭けてここに座っている(座らされている)のだ。マイナスは本気で嫌なのだ。
「ないとこ」でもいいじゃないか!
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