番外編 パチンコの打ち子という仕事もクソだからお前らは絶対に打ち子にならない方がいい


 今回はちょっとした番外編である。まったく雀荘とは関係はないものの、僕は経験したことのある(現在進行形で経験中でもあるが)、ほかのくだらない仕事についてお話ししたいと思う。


 麻雀という博打をする人間は、大方が博打好きである。麻雀をやっている人間は、競馬もするし競輪もするし、競艇もする。そして、なにより好むのはパチンコ・スロットである。

 店の客でも、8時過ぎまでフリーを打って、そこからパチンコ屋に行く、という人は少なくないし、反対にパチンコ屋が閉まってから来る、という人も一定数いる。

 まあ、パチンコなんて、完全に賭博の塊みたいなものだから、純然たる射幸心を煽る機械のようなものだから、少しでもそういう快感に惹かれている人間が病みつきになるのは仕方のない話なのだろう。

 ところで、麻雀は知っているがパチンコは知らない、という人たちのために、これからパチンコ・スロットというものをお話しする訳だから、これらについて少しばかりの説明をしたい。なにも難しい話をしようという訳ではないから、気を楽にして聞いてほしい。


 パチンコというのは、パチンコとは、ガラス板で覆った多数の釘が打たれた盤面上に小さな鋼球を盤面左下から弾き出し、釘に従って落ちる玉が特定の入賞口に入ると、得点、あるいは賞球が得られる遊技である(wikipediaより抜粋)。

 かみ砕いていうと、鋼玉を飛ばして、それを入賞口に放り込むと、1玉あたり10玉とか払い出され、それを繰り返し増やして遊ぶ、というゲームだ。これがパチンコの元祖。

 現在では確変機が主流になり、こちらは、入賞口に玉を放り込むと確変抽選が行われ、確変に突入すると大当たり確率が格段に上がり、それを継続させつつ、出玉を増やす、というシステムとなっている。

 一方スロットは、レバーオンごとに大当たり抽選がなされており、見事その抽選に当選すると大当たりになり、出玉がもらえる。スロットもまた現在ではAT機が主流で、こちらはATという出玉が増え続ける期間が存在していて、それをいかに継続させ続けるか、という仕組みになっている。

 まあ、一度遊んでみるとわかりやすい。パチンコは1玉4円、スロットはメダル1枚20円が普通だが、最近では、1玉1円とか1枚5円とかの低レートの店もどんどん出現している。


 パチンコ・スロット、ともに運がすべてを作用するのはいうまでもない。なにせ、パチンコなら1/399の大当たり確率を引き、そして80%だか60%だかの確変抽選を突破して、そしてさらにその確変を継続させ続けなければ大量出玉は獲得しえない。スロットについてもほぼ同様だ。

 が、そのほぼ運任せのゲームにも、一応、技術介入要素、というか運以外の要素も存在する。

 パチンコならば「回転数」。つまり、1000円=250玉で、何回抽選を試行できるかという指数。これが多ければ多いほど、当然、期待値は上がる。だいたい平均18~20回転/1000円くらいで、台の種類によって、ボーダーというものが設けられている。

 そして、スロットには、「設定」というものが搭載されている。1~6段階あって、これが高ければ高いほど、やはり期待値は上がる。


 つまり、回転数がボーダー以上の台を打っていれば、設定が期待値(スロットにおいては機械割という)100%を超える台を打ち続ければ、確率上は収支が上がるという訳で、そしてこれを生業にしている人間たちもいる。

 彼らを、「打ち子」という。よく言う言葉なら、パチプロ、と呼ばれる人種である。


 打ち子の朝は早い。いやまあ、実際はそんなに早くはないのだが。

 よく回るパチンコ、高設定のスロットを打つためには、むろんその台に座らねばならない。そのためには、その台に誰よりも先に座らねばならない。当たり前の話である。挙動のよさそうなスロットを打ってるからといって、そいつをぶちのめしてその台を奪っていいという道理などないのだから。

 だから、誰よりも早く店に到着し、その台を占拠する必要がある。パチンコ屋の開店時間は朝9時、もしくは10時だから、朝5時くらいに店に並べば、一番先頭に入店することができるだろう。

 ノーノ―、そんな必要はない。パチンコ屋には、台整理券抽選というシステムがある(*1)。くじ引きで入場順を決めようということだ。この抽選が開店時刻の1時間前くらいだから、それまでに店の前に並べばいい。

 そして抽選券を引き、運良く1桁なんかを引いたら、一目散に狙い台に向かい、着席。あとは、一生、ハンドルを回し続ける、もしくは、レバーをたたき続けるだけである。

 丸一日レバーを叩くだけ。昼飯くらいは食べるが、それ以外はずっとパチンコ、スロットに張り付きっぱなしである。なぜなら、試行数を稼がなければ、その台の挙動がわからないから。

 狙い台が、運悪く低設定だった場合は、すぐさま別の台に移る必要がある。だいたい、2000~3000回転もぶん回せば、その台の挙動が出始める。そこで低設定なら離席し、台探しへ。高設定っぽいなら、そのまままた打ち続ける。

 そしてこれがきつい。もくもくと、スロットと対峙して、ひたすらメダルを入れ、レバーをたたき、ボタンを押す。一見して単純作業だが、単純作業ゆえにきつい。

 趣味でパチンコ・スロットをしている人なら、いちいち演出を楽しめるかもしれないが、仕事となるともはやまったく別物で、何度も何度も打ちまくった台なら、そもそも演出なんて全部覚えてしまっているし、なにも面白くない。死んだ魚のような目で、腕を上下させるだけだ。

 まず目が疲れてくる。パチンコ・スロットは、強烈な光を発するので、半日経ったくらいで目がしょぼしょぼしてくる。

 次に肩が疲れてくる。腕を上げ下げするだけの作業がこんなにつらいとは! という感じだ。

 そして座りっぱなしなので腰も尻も痛くなってくるし、煙草を吸っていると喉も傷める。

 そしてなにより当たっていないときのつまらなさといったらもう! 自分が、ひたすらお金をメダルに換え、スロットにメダルを突っ込むだけの作業を繰り返すだけのマシーンのようにも思えてくる。

 これが丸一日、毎日続くのだ。必ずしも稼げるとは限らない。高設定っぽいからといって、丸一日打ってプラス5000円の時もあるし、反対に、高設定っぽいからといって突っ込みすぎて、マイナス20000円の時なんかもある。少なくとも、労働に見合った対価は得られていないと思う。

 これが、昨今のパチプロと呼ばれる人種たちの実態である。博打で食っていけるなんて、なんて楽な仕事なんだ! と思う方々もいるかもしれない。なかなかどうして、楽な仕事なんてありはしない。

 知人のパチプロの方は、毎朝満員電車に乗って都心部まで足を運び、開店から閉店近くまでスロットに張り付き、それでやって月のアガリが15万程度というのだから、やってられない。

 じゃあ、もっと楽に稼ぐことはできないか。と考えるのが人の性。楽な方に楽な方にと流れていくのが人の常。それゆえ科学は日進月歩の営みを続けてきているのだから。

 「こういった技術を持った打ち子を、5人ほど集めて、彼らにお金を渡して自由に打たせて、そのアガリの分け前をもらおう」。こういう風に考えはしないだろうか。

 むろん、そういう労働形態(?)の打ち子も存在する。

 親方(胴元)がいて、彼からスロットやパチンコに必要な投資金を預かり、その金で打ち、収益を提供する。負け額は親方が全額負担するが、得られる利益は浮き分の2割程度。という感じだ。福利厚生としては、煙草をひと箱無料でもらえたり、打っている間のジュースは飲み放題、など。

 一方で、完全時給制、もしくは日当制の打ち子もある。たとえば、5万発・万枚(=20万相当)出そうと、時給1000円、とか日当12000円とか。逆にこちらは、上記の歩合制と違って、仮に5万円負けたとしても時給が支払われる。

 当然、これも毎日出勤せねばならない。毎日パチンコが打てる! と大喜びする人もいるかもしれない。だが、毎日12時間近く、休憩もなく、単純作業を繰り返させられるのだ。そう考えると、なかなかブラックじゃないかしら。


 ともかく、こんな風に日々をしのいでいる人たちもいる、ということだ。

 20年前であれば、4号機(*2)が猛烈な勢いでメダルを吐き出していた時代なら、一日3万枚(=60万)なんていうのも普通の時代だったなら、この稼業で十分に飯を食えていただろう。しかし、昨今の5号機登場により、打ち子稼業はもう食えないものとなってしまった。そして近頃では、マシンのスペックも、5号機登場の頃に比して、相当低スペックなものとなってしまっている。スペックを見るだけで、「これどうやって勝つんだ?」と首を傾げるばかりだ。

 現在人気のバジリスク-絆-にしたってそう。あれだって、正直、どうやって勝つんだ、と思いたい。なんで、3ベルで割れて、マイナス4000枚もせにゃならのだ。「一発事故らせれば余裕、余裕」なんていうけれど、お前は交通事故で飯を食っているのか、と問いたい。

 やっぱり、仕事をするなら、ふつうのサラリーマンだよな、と思わずにはいられない。




 *1…ちなみに、先着順で店内入場させる店もいまだにちらほら見かける。朝の6時から、寒い冬空の下で凍えそうになりながら開店を待った思い出もある。



 *2…スロットには、1号機、2号機、と台のスペックにまつわる法規制によって世代が存在する。5号機の登場により食えなくなってしまって、パチプロを辞めた人も少なくない。

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