第6話 雀荘のあれこれ


 いままで、僕の目から見た雀荘の内側について、あれやこれや書いてきたが、ここでは、外側から見た雀荘のついて、ちょっとばかりご紹介したい。


 雀荘に来た事がない。もしくは、フリーで打ったことがない、という人が思うであろう疑問点を、すこしでも解消しようという訳である。



 ①雀荘の立地


 雀荘といえば、どこかうらさびれた場所にある、という認識をお持ちの方も多いのではなかろうか。まあ、確かに、路地裏にひっそりと佇む、個人経営の雀荘を見かけることも少なくはないし、麻雀というと、ダークなイメージを抱く人も多いだろうから、致し方ないことなのかもしれない。

 が、意外にも雀荘というのは、都市部のビル群の中にも立地が多い。例えば、筆者が一度東京を訪れた時には、秋葉原駅から徒歩5分の、歩行者天国をやっていたりもする大通りに面したビルのテナントの中にもあった(店舗の名前は忘れたが)。

 じゃあ、人通りの多いところに、のべつまくなしに雀荘があるのかといえばそういう訳でもない。サービス業の定石として、駅近などの条件はあるが、むろん、聡明な経営者なら、なるたけそれに沿うようにしているものの、どうにもならない問題もある。

 それは法規制である。法律上、雀荘は風俗店の一種であり、その営業には警察へ届け出を出さねばならない。その際、立地の制限がかかる。曰く、官公庁施設や学校、病院などから一定距離より近い場所には立てられないそうだ。筆者も直接資料に当たった訳ではないから、あまり正確なことを言えないが、少なくとも法律上の規制があるという認識があればいいと思う。

 そしてもうひとつ、テナントを貸す側の了承である。これが案外難しいらしい。

 雀荘と聞くと、先ほどにも言ったようにダークなイメージを抱きがちで、また、実際、煙草のヤニ汚れなどを嫌って、テナントを貸しだすことにどうにも良い顔をしない人が多いとも聞いた。

 このふたつをクリアして、その上で、サービス業として有利な立地に店を構えなければならない。雀荘とは、なかなか難しいものだ。


 ②より詳細なフリー業務


 雀荘のフリー業務を、駆け足でざっと説明したが、もしも「ちょっとフリーに興味が出たかも……」という方のために、もすこしばかり詳しめに、フリー雀荘というものを説明しておく。

 フリー雀荘というのは、まず看板にその旨が記されている。「貸卓専門」と書かれてある店は、その名の通りセットを専門。「おひとりさまで大丈夫」みたいな文句を並べてあった場合、フリー業務を行っている。

 そういう店に入店すると、まずはフリーかセットかを尋ねられる。フリーですと答えると、それはもう懇切丁寧と、店のルールやらなにやらを教えて頂ける。というのも、巷でよく言われるように、一昔前に比べ麻雀人口が減ったため、ひとりの客でも逃がしてたまるものかという魂胆である。

 おおまかなルールはどの店も共通だが、特に個人経営の店の場合は、その店独自のルールがある場合が多い。例えば、白ポッチ(*1)ルールが採用されていたり、持ち点が40000点だったり(サンマの場合)、……特にサンマの場合は、コシ(*2)に対するペナルティやフリテンツモの有無など、やや細かい。まぁ、ほとんどの場合はやりながら体感するものだが、頭の中に入れておくのとそうでないのでは、全然違う。

 そしてもうひとつ大切なのが「レート」である。つまり、1000点あたりいくらで、その店は賭けを成立させているか、ということだ。店によっては複数のレートの卓を設けている場合がある。

 いわゆる「ハーフ」は1000点50円。「ピン」は1000点100円。昨今のメジャー麻雀プレイヤー層のお財布事情からか、どの店舗でもこのレートがメインである。さらに、初心者向けに1000点30円や20円なんかもある。

 もちろん、さらに上のレートも存在する。1000点200円の「ツー」や300円の「スリー」。筆者は行ったことすらないが、1000点1000円の「デカピン」なんかも、いまだに存在するらしい。

 ルールの説明を聞き、レートの選択をすると、店側から「預かり」を要求される。手荷物を預かります、という訳ではない。

 ではこの「預かり」とはなんだろうか。これを説明するにあたって、フリー業務を行う多くの店が採用しているシステムについてちょっと解説したい。


 フリー業務とは、見ず知らずの客同士が金銭を掛けて麻雀を打つにあたって、その公平性を司り、また、負け額の踏み倒しなどを防ぐことを業務のひとつとしている。つまり、プレイ中のイカサマなどがないように見張り、またプレイ後の勝ち分の保証などをしてやるから、管理料を寄こせ、という訳である。

 さて、麻雀にはお金を賭けるもの、と散々言ってきたが、まあぶっちゃけ、賭博は違法である。これはもうまごうことなき事実だ。

 とはいえ、麻雀に負けました。じゃあお金を払います。はい、20000円。と、その場でお金を手渡してしまっては、あまりにもあからさまであるし、もし警察などに踏み込まれた場合(まぁ、そうそうないが)、客同士だけではなく、管理している店側にも責任問題が発生する。

 そこで考案されたのがチップ方式である。

 客は店側に10000円を渡し、その代わり店は客に10000円分のチップを渡す。そして、ゲーム終了のたびに、各プレイヤーは支払いやゲーム代としてこれをやり取りする。

 で、最終的に、チップの残高分の金額を店側から返してもらうのである。そしてその店に渡す初期資金=預かりと呼びならわす。

 ハーフなら10000円。ピンなら20000円程度。それ以下なら、まぁ5000円からでも受け付けてくれる。もちろん、それ以上出しても構わない。

 パチンコ屋の換金システムと似たようなものである。建前上はチップをやり取りしているだけでお金は動いていません、というポーズに過ぎない。


 と、こんな風になっているから、まずは預かりを要求される訳である。そして渡した金額分のチップを借りる。メンバーが本走中ならその半荘が終わったあとに卓に案内され、ゲームスタートとなる。


 そうして何半荘か打ち、仮に負けが続いて残りチップが心もとなくなってきた時、必殺おかわりコールである。ジュースをおかわり、という訳ではない。チップをおかわりである。この時ももちろん先に預かりを要求される。財布から5000円なり10000円出して、チップを受け取る。

 もうお金がなくなったり、あるいは勝ち続けて麻雀に満足した時には、ラス半コールを掛ける。これは、次の半荘でもう終わりにします、という宣言である。もちろん、フリーなのだから半荘と半荘の間ならいつ抜けてもらっても構わないのだが、店側にも準備というものがあるし、卓を囲んでいるほかの客に対しても配慮がいる。マナーである。

 あとは残ったチップを換金してもらい、現金を受け取り帰路に着く。以上が、一連のフリーの流れである。


 最後に。客としてフリーへ行くことは、筆者な悪いこととは思わないし、むしろオススメしたいほどでもある。麻雀という遊戯は、無限の面白さがあるし、お金を賭けて射幸心を煽ることもまた、ひとつの楽しみでもある。

 打ってみたが今日は体調が優れない、あるいはいまひとつ麻雀の調子が悪い、というのなら2、3半荘で抜けてもいいし、気に入らない客がいるなら、店側にそっと同卓したくないと伝えればいい。別の客同士が険悪になっていても、そしらぬ顔でロン、ツモ言い続けてもいいし、他の客のヘイトを向けられたのならすぐさまラス半コールを掛ければいい。

 が、メンバーとなったならそうはいかない。体調が悪かろうが調子が悪かろうが、客が打つと言えば打たねばならぬし、気に入らない客にも笑顔を向けねばならない。客同士が揉めているのなら、うまくとりなす必要があるし、どんなに打ちたくなくても、けしてラス半コールは掛けられない。そうして、今日の給料が減っていく。

 とはいえ、いま言ったことのすべては他のサービス業すべてに通ずることだろう。言いたくもないおべっかを垂らしながら、阿諛追従の笑顔を絶やさず、心身をすり減らしていくのは、サービス業のさだめに違いない。




小話②


 店舗によっては、チップを使わず、そのまま現金でやり取りさせる店もある。預かり方式に慣れた筆者にとって、所見は驚くべきものであったし、いまだにいかがなものかとも思っている。

 とはいえ、筆者は大阪の至極狭い範囲でばかり麻雀を打つことが多いから、あるいは関東では現金でやり取りするのがメインだったりするのかもしれないなぁ、とも考えている。もし、そうなら、誰かこそっと教えてください。



小話③


 それから、ひとりぶらりと東京旅行に行った時の話だが、ノーレートのフリー雀荘に行ったこともある。ノーレートで打つ人間なんているのかと、興味本位で入店してみたが、存外に賑わっていて、むしろ盛況ですらあった。

 が、いかんせん場代が、1半荘ひとりあたり600円とはいかがなものだろうか。しかも東風戦。勝てない云々以前に、すさまじいスピードで財布が軽くなっていくんじゃないかしら。

 まあ、東京というテナント代のバカ高い土地にある上に、メンバーの給料も相当なものだろうから、利益を上げるには仕方のないことなのかもしれない。敬遠こそすれ非難したり批判したりするものではないと思う。




*1 「白ポッチ」…字牌の白に、点のようなポッチが付いたもの。普段はふつうの白とした扱うが、リーチ一発でツモった場合はオールマイティ牌となり、また祝儀も発生する。


*2 「コシ」…コシを使う、などの言い方でよく使われる。例えば、自分が中の対子を持っていて、誰かが發を捨てた時にピクリと反応してしまうようなことを言う。4人打ちの場合、特に罰則はないときが多いが、サンマの場合厳格なペナルティを課されるときがほとんどで、字牌でコシったなら字牌で和了ることを禁止されたりする。


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