第3話 3人打ちの闇


 さてここで、手前の話に戻る。前の話では、雀荘におけるフリー業務について解説したが、ここではちょっと変わり種の麻雀フリー業務について説明したい。


 麻雀というのは、基本的に4人で打つもの、という認識が強いかもしれない。それは間違っていない。プロリーグだって4人で打っているし、咲-saki-の大会でも4人で打っているし、アカギだとむこうぶちだって、基本的には4人で打っている。

 が、3人で打つ麻雀というものの存在も、かすかにだが覚えのあることだろう。

 いわゆるサンマと呼ばれる、麻雀の亜種であるが、関西——特に大阪ではこちらの方が主流である。

 サンマが主流になった理由はいろいろあるだろうが、筆者の推測では、1回あたりのプレイ時間が短くていい、というせっかちな大阪人の気質にマッチしているのだと思う。

 サンマと4人麻雀の違いをざっくり説明すると、まず、マンズの「二~八」がない。つまり、ピンズとソーズ、字牌、それからマンズの一、九だけの構成となる。

 そして、3人で卓を囲むために北家が存在しない。そのため、字牌の北を「ドラ」として扱うところが多い。北抜き麻雀というやつである。

 そのためドラが増える。ので、平均打点も上がる。ゆえに、初期点棒も35000点となっている。

 また、チーがないというのも挙げられる。

 サンマと聞くと、多くの4人打ちプレイヤーは顰蹙してしまう場合が多い。いわく、ドラ麻雀、だとか、大味すぎてつまらない、だとか。

 ご意見多数あるが、まぁ、関西では3人打ちが主流なのである。

 筆者もまた関西の生まれであるので、大学に入学すると同時にサンマにのめりこんだ。そしてあれよあれよという間に、雀荘のメンバーとして雇われ、月給20000円のいまに至る。


 フリー雀荘のルールは前話で説明した通りで、サンマにおいても、同様にフリー業務がある。その仕組みは4人麻雀と全く一緒で、1半荘ごとにプレイヤーから場台を頂戴する。

 関西の三人打ちフリー雀荘の基本的なルールは、「喰いタン後付けナシの、全赤華アリ」が多い。一見すると、まるで呪文のような言葉だが、一度でも麻雀を遊戯したことのある方々なら、ちょっとした説明で理解しうることなので、すこし脇道に逸れてみようと思う。麻雀未経験者にはすこし難しい話なので、読み飛ばしてもらって構わない。


 喰いタン…ポンやチーを入れてのタンヤオ。3人打ちのみならず、関西の麻雀では基本的に採用されないことが多い。

 後付け…いわゆる役牌バックや片和了りなどのこと。


 233445②③④⑨⑨白白


 上のような牌姿の場合、リーチをかけていない場合、白で出和了りできない。なぜなら、この状態では、まだ「役が確定していない」ということになり、白で和了ることは後付けとなるから。当然、⑨の場合役無しである。


 233445②③④白白中中


 上のような牌姿の場合、リーチをかけていなくても、白or中で出和了り可能。なぜなら、どちらが出ても役牌という役が確定しているから。


 全赤…5筒、5索がすべてドラであること。


 華アリ…ドラである華が入っているということ。



 普段、関東式の4人麻雀をたしなんでる方には、ちょっと想像もつかないルールだろうが、関西のサンマではこれが普通である。


 関東の友人に話して特に驚かれることは、全赤と華アリルールである。もちろん、正規のドラも入っているし、裏ドラも採用している。

 つまり、

 5筒×4枚 5索×4枚 華×4枚 表ドラ×4枚 裏ドラ×4枚

 の20枚のドラが存在しているのである。

 そのため、平均打点は跳満程度で、満貫なんて、役牌を1枚鳴いて、華を1枚抜いて、赤ドラを2枚使えばたやすく和了れる。


 要約すると、関西人は、ハイインフレ麻雀で楽しんでいるという認識でいい。


 そしてここからが本題である。

 サンマは基本的に1局あたりの回りが早い。というのも、そもそもマンズの二~八を抜いているため面子ができやすい。1局が早いから、むろん1半荘あたりの時間も短くなる。プレイヤーが3人しかいないため、1半荘における局数も6回なので、これもまた1半荘あたりの時間を短縮している原因でもある。


 サンマの1半荘あたりのプレイ時間は、およそ15分~20分。4人打ちの3分の1程度の時間である。その分、ゲーム代のペースも上がる。

 3人打ちのゲーム代は、大阪市内なら平均1000円~1500円。電車に乗って田舎へ向かえば、1000円を切る店も散見される。

 店側は、1時間あたり3000円~4500円程度の収益が期待できる訳だ。

 つまり、プレイヤーが1時間あたりに負担しなければならないゲーム代は、1000円~1500円。ん、ちょっと待てよ。

 メンバーの時給は平均1000円。プレイヤーの負担しなければならないゲーム代も時速1000円。


 もうなにが言いたいかお分かりであろう。メンバーが本走に入ってしまっている時点で、そのメンバーの時給は差し引き±0である。


 これが、3人打ちの闇である。

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