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上のフロアーに上ると、そこからは下のフロアーが綺麗に見えた。いわゆる、上から見下ろすという感じになるだろう。随分と綺麗な太鼓橋だなぁ...
「この日本橋は当時の再現の様だな。今の日本橋は19回くらい建て直したらしいな...」
欄干に肘をつき、遠くを眺めながらそう言った。その姿は、物思いにふけっているような感じもしたんだが、向こうにはただの骨組みしかなかったので、とりとめ意味の無い行動だと思う。
「この橋の上からよく町を眺めました...道行く人たちが楽しそうで、私も将来は...と思っていました...」
橋の手すりに右手を置き、それをなでる。言葉は短く小さめだった。
「日本橋に思い出があるの?」
「はい...ここは江戸の、いや日本の起点とも言われ、様々な場所から人々が訪れとても賑わっていました。全国から訪れた人が、その土地の物を持って来たり、売買が盛んで、幼かった私はそこを通る度に様々な思いを馳せていました...」
眼下に移るはどこかの親子。不思議そうに親に物を尋ねている。見たことが無い物に囲まれて落ち着かないのだろう。
「そうだったな...江戸は当時120万の人々が行き交う東洋のベニスとも言われた場所らしいな。今の東京は変わってしまったが、それでも東洋で主要な街なのは変わらないだろう...」
いつもながら変な事ばかり知っている。
「何故、私はここに居るのかさっぱり分かりません...何も思い出せません...ですが、ここに来て少し思い出した事があります」
「何を?」
「私は未練を残し死んで行ったのです...お役人様に家族とともに処刑されました。縄で叩かれ、刃物で裂かれ、古井戸の中へ投げ込まれ...」
と言うことは...俺は清ちゃんの手を握る。冷たい...氷の様に...だが、氷とは違う、ほのかな温かみも感じる様な気がする。
「幽霊なの?」
「おそらく...たぶん...はい、そのようです」
俺はふと頭の中に浮かぶ幽霊像を浮かべた。全身、白装束に頭は白頭巾。両手を前に垂らし、掛け声は『うらめしや~~』だ。だが、目の前の女の子は色白で可憐な中学生くらいの女の子。テレビの中から出てきたのは現実だったのか...!
俺は今、初めて自分のおバカさを知った。なんと...現実は小説より奇なりとは言ったもんだ。高橋...変な物を持って来おって。
「兄貴...」
自然と兄貴の方に視線を向ける。だが
「そうか...良かったな。どうあれ、もう一度、人間として現実と戦えるぞ。今まで出来なかったことを達成するチャンスだ」
腰に手を当てて口元に笑みを浮かべながら答えた。おそらく、清ちゃんを気遣った訳でも、元気を出すように言った訳でもない...これはマジで言っている。
「ふぇ?」
「滅多に無いぞ、云わばセカンドチャンスを貰った様なものだ。これからは好きな様に生きるといい」
驚き目を丸くする清ちゃん、その肩をポンポンっと叩く兄貴...つまり、人間だろうが幽霊だろうが彼には大した問題ではないらしい。
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