ガタン、ゴトン...独特な音をかき鳴らし、電車がホームに近づいてくる。ってここホームだったんかい!?そう思える程の、平坦な場所だったから気がつかなかったけれど、レールがうっすらと敷かれていた。


プシュー。

ドアーが開く音が鳴った。それに伴い、ゾロゾロと電車から降りる人や乗り込む人影が。


「どうしよう...兄貴?」


「うむ、ここに来た手前乗らないで帰るのも勿体無い。折角だから乗ってみよう」


そう言うと兄貴は立ち上がる。俺も清ちゃんの腕を掴むとその後を追った。ドアーが閉まる。清ちゃんは少々、息づかいが荒くなっている様子だが、どうしようもないって程では無さそうだ。それに運良く座席も空いているみたいだし。


「清ちゃん、座りなよ」


「あ...はい...ありがとうございます...」


どうにも元気が無い。


「う〜ん、大丈夫?」


「いえ、大丈夫です...少し目眩がするくらいで...その、私の為に連れて来て頂いたのに申し訳ありません...」


がっくりと肩を落とし、落ち込んでいる様子だ。


「いいよ、いいよ。こうしてちょっとした旅行が出来たんだからさ」


「そうだ。それにこの都電荒川線は現在、貴重な軌道路線。滅多に乗る機会が無いからな...」


兄貴は、感慨深そうに腕を組みながら頭を上下させた。


「そうだね...すぐ隣を自動車が走ってるなんて、普通の電車じゃほとんど見ないからね〜」


「信号で停車する光景は他では見る事が出来ん。せっかくだ、目に焼き付けておこう」


「でも凄いです。私が知らない事ばかり...」


どうやら、少し回復したみたいだ。


「知らない知識を得る事って楽しいですよね...驚く事ばかりで、勉強になります」


...なんて素晴らしい娘なんだろう!勉強が楽しい?聞いた事が無いぞ...そんな人間!


「そっか。まぁ若いんだし色んな事を覚えてみたら良いと思うよ。役に立つ日が来るかもしれないしね」


「はい!とても...とても楽しみです!」


初めてみたその笑顔はひまわりの様に眩しかった。ああ、夏よどうして君はそんなに俺を照らして行くんだい?何も言えなくて...夏。


おっと、一瞬、頭がおかしくなってしまった。夏バテだろう、きっと。


「さて...とじゃあ次は何処へ行こうかな...ん?」


その時、脳裏に記憶が蘇る。あれ?確か...。あれは中学の時だったような...?クラスの行事で連れて行かれた場所。

今現在の日本と異なった時代の生活が飾られていた場所...


「江戸...晴海?違う。江戸東京...」


江戸東京博物館えどとうきょうはくぶつかんの事か?」


「それ!それそれ!!確か、昔行った記憶があるんだけど...」


「方向としては真逆だが...行ってみるか?」


「江戸の町屋って言うのがそこにあるかもしれないからさ」


そう言うと俺たちは途中の駅で降りると、電車を乗り継いで博物館へと歩みを進めた。

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