日本の技術はここまで進化していたとは...地上から発車した電車はすぐにトンネルを潜って行き地下へと進んで行った。1駅ですぐに乗り換え。


兄貴の言った通り、そのまま30分程電車に揺られていると、目的地にたどり着いた。その間、清ちゃんは薄暗い景色と響くサイレンや案内の音に驚いている様子だった。


「さてと、町屋に着いたぞ」


「...で?せっかくだけどここで何をするのさ?」


申し訳ないが、すごい都会と言う訳でもないし、観光の名所ってほどでもない。


「うむ。お清さん、どうだ?こういう場所に見覚えは無いか?」


「...初めて見る景色です...」


なんだか申し訳無さそうに呟いている。


「では仕方無い。次の場所へ移動するか...」


「次って?」


「近くだと堀切菖蒲園や千住大橋、上野恩賜公園や浅草雷門...たくさん名所はある」


それってただ単に兄貴が行きたいところなのでは?


「あのさ、もっと普通の場所無いの?」


「普通と言われてもな...昔の東京球場跡地やお化け煙突と言われた...ああ、荒川ふるさと文化館とか」


「もういい。分かった、ここからは俺がなんとかする」


腕組みをしながら首を捻る兄貴。このままだと東京北部観光になるだけで、清ちゃんの記憶を取り戻す旅にはならなそうだ。


「清ちゃん、何か思い出せそうな事ってある?」


「思い出せる事...」


「何でもいいよ、どういう景色とか、どんな人とか」


多分、それじゃ何も分からないけれど、この際知っている事を全部吐き出して貰おう。そうすれば今後の方針もある程度決められるはず。


「...人が...町民が私たちを見ています...ある人は悲しそうに、ある人はせせら笑うように...」


「その人達はどんな人?」


「町の...人。付き合いがあった者も居れば、そうでない新顔の人も...」


目を瞑って絞り出す様につぶやく。色白の顔がだんだん青白く変色していく。


「ストップ、ストップ!もういいよ!目を開けて!」


「ふぁ?ああ、すみません...少し気分が悪くなって...」


とりあえずこんな直射日光マックスの駅前に居るより座った方がいいか...でも、ベンチなんて簡単に無いし...


「兄貴!何か良い場所は?」


「無いな。少し行った場所に自然公園と隅田川が存在するがそこまで歩く方が時間がかかる。一番懸命なのは駅の構内だろう。水もありトイレも設備されてて、駅員もいる」


「また、この地下まで降りるの?」


「いや、他に2つ電車が通っているから、そこの改札をくぐれば良い」


見上げれば、高架の上を走っている電車がある。よし、これに...

ちょうど、その時?と思われるプラットフォームを見つけた。


「兄貴!あれは?あれなら登らなくて済むし、改札もないよ」


俺は世紀の発見をした科学者の様な、頭に閃光が走った感覚の衝撃を覚えた。ふふふ...俺は兄貴を超えてしまったんです...

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