「いらっしゃいませー」


それなりに若い人が来ると思われる服屋に来ると、夏の売り出しセールと秋に向けての新作販売が始まっていた。やはり、何事も早め早めの戦略なんですな。


「婦人服売り場は4階か...」


「エスカレーターがあるよ、ほら」


俺が指をさした先には上へと向かうエスカレーターが。これに乗ればあまり体力を使わずに済む。

俺達3人は上を目指し、エスカレーターに乗った。


「あ...床が...」


清ちゃんは思わず乗り場の前で止まっている。これでは、他の人の邪魔になる...


「手を!」


短くそう叫ぶ。思ったより大きな声が出てちょっとだけ恥ずかしい。


「あ...」


前のめりになりかけている清ちゃんを掴んで、自分の身体の方へ引き寄せた。やっぱり軽い...そして冷たい。


「そっか、エスカレーターも初めてか...」


「床が...動いています...これは」


興味深そうに自分の足元をキョロキョロと見ている。まぁそこを見ても仕掛けなんて無いんだが。


「もうすぐ降りるからさ、準備しておいてね」


「は、はい!」


何やら自分の決意を新たにしたような表情をしている。そこまで気合いを入れるものなのか...俺はふと、子供の頃初めてエスカレーターに乗った記憶が蘇った。


「そっか...」


「どうした?」


「いや...なんでもない」


年を重ねれば純粋な気持ちも無くなってくる。こういう時こそ、うれしいを、しっかり。

なんて事を考えていると婦人服売り場へ辿り着いた。


「着いたな。お清さん、好きな服を選んで良いぞ。ただし、持てるだけの量にしておくこと。いいな?」


「遠足じゃないんだから...」


と言っても清ちゃんはキョロキョロと店内を見回すだけ。こういう店も初めてなんだろう。


「兄貴、適当に見繕ってあげた方が良いんじゃない?」


「それならばプロの判断に任せよう」


兄貴はそう言うと店のレジカウンターまで爆進していった。まるで戦場を駆る軍人の様な堂々とした歩き方。一言で言うとミスマッチだ。


「すみません、ちょっと宜しいですか?」


「はい、なんでしょう?」


茶髪で軽くウェーブを掛けた若い女店員が兄貴の問いに答えた。


「人気のブランドはどれですか?」

 

「それでしたら...」


何やら、話し込んでいるみたいだ。店員さんに促されるままその後ろを歩いている。


「あのまま兄貴に任せていいの?」


「贅沢を言える立場じゃありませんから...」


「別に断って良いんだよ?」


「いえ、嬉しいです」


そうなんか。変わってらっしゃる...


「よし、情報収集は完璧だ」


口元に笑みを浮かべ、セガールもとい兄貴が帰ってきた。

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