10

「ただいま」


もう、そんな時間か。あれから1時間くらい経ったみたいだ。どうにも時間が進むのが早い。これならば、凍れる時間ときの秘法でも使っておけば良かった。まあ時間が凍結する訳ではないんだが。


「ん?どうした?」


リビングでボケーッとテレビを見る俺と、フローリングで小さく座っている清ちゃん。そんな俺たちに兄貴は声を掛けて来た。よく見ると両手に買い物袋を持っている。


「まぁなんだ。せっかくだし今日は御馳走にしようと思ってな...」


こういう事を言い出すときはやっぱり...


「肉だ!」


ドン!

人格が入れ替わらんばかりの音が鳴りそうなくらいの勢いでテーブルの上には肉、肉、肉...つまるところ肉料理が現れる気配がプンプンする。


「夏はしっかり食わんと体力が切れる可能性が高いからな、肉と野菜、あと米。しっかり食って夏バテなんて叩き潰す!」


えぇっと、これを見ると...肉以外は白菜にネギにしめじに人参...あと他の野菜もちらほら。


「兄貴、しゃぶしゃぶか?」


「ああ、これならみんなで食卓を囲めるし栄養もあるし問題ないだろう?」


「まぁ...確かに」


うん、暑いけどしゃぶしゃぶならそんなに胃もたれしないし、場合によっては冷しゃぶにも出来るしでバリエーションが豊富だしね。


「じゃあ後は俺たちがやるから...」


「何を言う!」


お前が何を言う、だ。


「え?」


「えっと、君!」


「清ちゃんだよ」


「清さんか、良い名前だ。お清さんとやら!」


いきなり名前を呼ばれてビクッとしている。恐る恐る兄貴を見ている様だ。


「一緒に料理を作るのを手伝ってくれないか?」


「......はい!」


あれ?なんだか少しうれしそうだぞ?


「兄貴、お客さんなんだから、そんな事を手伝わせるのは野暮ってもんじゃ...」


「甘いな。この家に来たからには平等に扱わせて頂く。もっとも、危険な事をさせるつもりは無いから安心しろ」


「...!あの、じゃあ...何をしたら良いのでしょうか...」


「そうだな、まずは野菜を洗ってから切る。出来るな?」


「はい...では井戸で水を...」


「この蛇口を下に下げれば水が出てくる。上に上げれば止まる。...そうだ、そこでこれを洗ってくれ!」


おっとっと、俺の存在感が無くなると思いましたよ。兄貴と清ちゃんが暴走しないかここで見ているか。


「なかなかの刃さばきだ。さては、どこかの軍で鍛えていたな?」


「?......家族のご飯は私が作っていましたから...」


「そうか、料理が出来るのは素晴らしい!よし、米は任せろ、なんなら飯盒で...」


「兄貴、普通に炊いてくれ、普通にな」


「ふふっ...」


あれ?今なんか笑った様な...でも、少し兄貴に感謝かな。何かさっきより楽しそうに野菜を切ってるし。


「はっはっは!なら、プロテインを鍋に追加で......!」


「駄目です」


はぁ。肉だと喜びのあまり暴走するのを止めてくれませんかね...?

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