身体を伝う水が気持ち良い。そう言えば今、気づいたんだけど、彼女は風呂に溜まっている水を使った様だ。ごっそり溜まってた水が減ってる。


シャワーヘッドから水を出し頭から水を被ると人の気配が。もしや...


「そこに、いるの?」


「......」


「居るんだね?」


扉越しでも分かる人の気配。


「お背中...流しましょう...か?」


いや、結構。風呂は数少ない自分1人でゆっくり出来る場所なんだ。出来れば邪魔をされたくない。


「大丈夫だよ、それよりゆっくりしててよ」


「.........」


なんだか幽霊みたいな子だな。う〜むそういや何て名前なんだろう?色々有りすぎて聞くのを忘れてしまった。


「あ〜さっぱりした」


思わず口に出る。身体を拭き、適当な下着を履く。部屋で着てくれば良いか。


ガラッ


「......」


「どうしたの?何かあった?」


「いえ...お手伝いを...と」


この状況で何を手伝おうとしているのか。間違いなく着替えは1人で出来るし、洗濯も洗濯機くんが勝手に回してくれる。自分の自分のケツは自分で拭くさ...ってリンドウさんも言ってた。


「ちょっと着替えてくるからさ、そこで待っててよ。あと、君の服も洗っておくから」


階段を登る。さて、このままだと変質者扱いされかねん。さっさと着替えようっと。近くにあったTシャツと短パンを着る。これで下へ向かうと...あれ?居ない。風呂場か?


「お〜い...ここか〜?」


ゴウンゴウン。回る洗濯機。それを見つめる彼女。


「どうしたの?濡れた服は洗ったよ?」


「.........回ってる」


「そりゃあ回るよ、洗濯機なんだもん」


「.........」


興味津々で見つめる彼女にそれ以上の言葉は無かった。そんなに興味を持つ物でも無いと思うんだけどなぁ?


「そう言えばさ、君って何処から来たの?あと名前とか教えてくれると非常に助かるんだけど」


扉に片腕をつき、洗濯機とテレパシーを使っている彼女に向かって質問を投げかけてみる。


「...江戸の町屋。名前は...せいと申します」


えどのまちや?名前は清ちゃん、か。まぁ後でネットで調べようっと。どこかにヒットする街があるだろ。


「じゃあ清ちゃんはさ、何故うちに来たの?」


「...分からない。長い間さまよっていて、途中の記憶が曖昧。でも気がついたらここにいた。今までの人は私に驚くと悲鳴を上げていた。そこで私の記憶も曖昧になっていく......」


「ふ〜ん、じゃあもしかして幽霊?」


「......分からない。ただ、私はとうの昔に殺された。冷たい、井戸の中へ投げられ、絶命した」


あれ?何か夏のホラーっぽくね?


「井戸ってこの時代にはあまり無いなぁ。山の方へ行けば少しはあるかもしれないけどね」


「......分からない。何故、ここにいるのか。こうして生きているのか...も。私は何故...父上、母上...大兄上、姉上、兄上、さい冬次とうじ......」


彼女はそう言うと膝から床につき、顔を覆ってしゃくりだしてしまった。あ〜らら、あんまり深く聞かない方が良かったかな?


俺はそこで彼女が落ち着くのと、洗濯が終わるのを待った。

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