「と言うことより、この法律では......」


眠たくなるような講義を受けながら、俺は指でペンをくるくると回して考え事をしている。果たして、これで良かったのだろうか?見ず知らずの人を自宅に招き入れて、その人に家の管理まで任せることにして...


常識で考えればおかしな話だ。それにどこから入って来たんだっけ?テレビ?ありえない話だ。おおよそ窓とか玄関とかその辺が開いてたんじゃないのかな?夏だから開いてた可能性だって高い訳だし。


「つまり、この時この法律が適用されます」


でかでかと黒板に文字が書かれている。あ〜、これは書いておかないと...通年の授業ってのは前半の試験の事も覚えておかないといけないから大変なんだ。あとは夏休みになるから...


「以上で、前期の講義を終わります。これから夏休みに入りますが、休み開け最初の授業でレポートを回収しますので、忘れずに持ってきて下さい」


レポートが有るんだよねぇ...なるべく早く終わらせないと、他の科目も忙しくなるだろうな。


講義を終え、鞄にノートやらレジュメやらを放っていく。さて...昼を食べたら3限か。それが終わったらまっすぐ帰ろうっと。


「おぉ、裕哉!お前、今、空いてるか?」


そこに現れたのは、同じサークルの朝倉宗吾あさくらそうごが手を振りながらやって来た。どうやら、彼も近くの教室で授業だったらしい。


「どうしたの?俺に何か用?」


「いやー、一緒に飯でも食わねぇか?」


「おごり?」


「な訳ねぇだろ!」


なんだおごりじゃないのか...少々残念な気持ちを押し殺しながら、食堂へ席を移した。


「それより、お前今年の合宿は来るのか?返事を貰っていないのはお前だけだぞ?」


合宿ねぇ...一応、俺は『怪奇現象探索同好会』なる不思議なサークルに入会したのは良いが、途中から参加頻度が少なくなっていき、現在ではほぼ幽霊部員状態。


「合宿か。今度は何処へ行くの?」


「聞いて驚け、今年は栃木の男体山へ行くんだ!」


男体山、それは栃木県日光市に存在するという山。日本でも有数の山で登山客も多い。なぜ、そんな有名な場所にうちのサークルも行くことになっているのか?


「と、言うのも...この場所には不思議な伝承が伝わっていたり、それを裏付ける様なスポットも多く、夏に幽霊が出てきたりするんだってよ!」


「テレビの中からとか?」


「バッカ、あれはドラマや映画の話だろ?こればっかりはリアルだぜ...」


宗吾は力説している。その横を何人もの生徒が冷ややかな目で見て、通っていった。


「企画者は誰?」


「高橋だよ」


やっぱりな。

去年までの夏の合宿は千葉県の某海岸での普通の合宿だった。その時に高橋がリアル肝試しをやったところ...まともな後輩は全て消え、頭のネジが飛んでいると思われる奴らが残った。それがこのサークルの現在地だ。

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