「あれどうしたの?」


立ち上がった俺と対照的に、彼女はちゃぶ台の前にちょこんと座っている。まるで座敷わらしの様だと言いたいが、どう見ても小学生男子には見えない。つまり座敷わらしでは無い。


「ここに居ても良いけれど、早く帰らないと家族が心配するよ?」


「............」


あれ?聞こえなかったのかな?彼女は虚ろな目をこちらに向けながら微動だにしない。う~む、どんな不都合が有るのだろうか......


「言いたく無いのなら良いけれど、君...家出?」


この質問にも反応が無し。まるで無機物を相手にしているみたいだ。あ~あ、これじゃあ会話にならないや...


とそこに、茶碗を洗い終えた兄貴が今、居間へ帰って来た。おっと高度なギャグが飛び出しましたよ?


「腹も一杯になったろうし、そろそろ行くか?ん?どうだ?」


...運動の勧誘じゃないんだから......兄貴は彼女に合わせて中腰のまま、そう質問した。それに対して微動だにしない彼女。だが、兄貴も「ん?どうだ?」のゴリ押し戦法で彼女に迫る。


「あの...私...家族...居ないです......」


根負けしたのか、彼女はポツリ、ポツリと小さく言葉を話し始めた。


「家族がいない...」


「だと...?」


俺の言葉に被せるように言葉を発してきた。しかも、だと...?だけ...だと...?


おっと、話が横道に逸れた。まぁ、うちも家族が半分居ないみたいなもんだし、それなりに大変な事情が有るんだろう。


「え~っと、今は居ないって事かな?」


「以前、お役人様へ逆らった罰として...処刑されました」


処刑...人なんちゃらってカードが有ったような。いやいや、どこの国だよそれ。現代の日本にはあり得ないぞ。


「役人って...何かのドラマや時代劇の見過ぎなんじゃない?」


「.........」


しまった!再び、だんまりを決め始めてしまった。どうしよう?


「なぁ兄貴?彼女の言っている話をどう思う?」


兄貴に小さく耳打ちする。


「理解が追いつかない...が、彼女が嘘を付いているとも思えない」


「どう言うこと?」


「謎の設定まで作って我が家に忍び込んでくる理由が無いと言っている。彼女が...仮にどこぞのスパイや強盗だったとしても、あの細腕ではこの俺を制圧する事は出来ん...」


あんたの考えていることの方が理解が追いつかないよ。何故、戦う事を前提に物事を考えているんだ?


「もしかすると人には言えない様な事情が有り、やむなくここに居るのかもしれん」


「じゃあ彼女がその気になるまで、うちで面倒を見るって事?」


「ああ、大丈夫だ。問題ない、そのうち飽きたら帰るだろう」


全く問題が無いようには見えないけどね。でも、困ったな...兄貴は仕事だし、俺は大学が有るし...場合によっては1人で留守番してもらうことになってしまうんだが...


「仕方あるまい数日の辛抱だ。幸い、お前は時機に夏休みになるだろうし、俺も今週は早番だ、夕方には戻って来られるだろう」


兄貴の職場ってうちから徒歩30秒だもんね。

そう言うと兄貴は


「この家を自宅だと思って使ってくれて良い、ただし!我が家の規律は守ってもらうぞ?」


と彼女へ向かって言い放った。彼女は目を丸くし、身体をびくっと強ばらせた。う~ん、本当にこれで良いのかな......

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