時間はそろそろ23:58を越えようとしたところ。今くらいにDVDを入れればおそらくは間に合うだろう。こういう夏に持ってこいのDVDと言ったらもちろん、アレだと思う。俺も大方予想がついていたところだが...あえてその策に乗ってみることにした。


リビング以外の電気を消して、タオルケットを頭から被る。よし、定番の準備はOKだ。何でも来い!


画面が闇に染まる。そして今は見慣れなくなった砂嵐が現れて...これだよ、これ。俺はこういうのを待っていたんだ...逸る気持ちを抑えて画面に目を凝らす。砂嵐が再度闇へ染まる。そして血の様に赤く、それでいて黒い気味の悪い文字が画面上に現れた。


『呪いころしてやる......』


おおっ呪い!これはまたベタだなぁと思ったんだけど、呪いの文字が口と兄にしか見えず、あの男が脳裏に浮かんだので興ざめしてしまった。いかん、いかん。


ザザー...ザザー...


気味の悪い音とともに画面には1人の女性が髪を振り乱しながら現れた。地面を這いずるその姿。そして濡れている白装束。裾は泥と血のような黒い汚れで染まっている。


「み...た...な......」


再び画面に近づいてくる。おおっ、迫真の演技だな。これからどんな展開になるのかな?


「私を...見たなぁ...」


掠れるような声だったのがだんだんとクリアーになってくる。10m...5m...徐々に眼前に迫ってくるその姿は恐ろしさとともに本当に呪われるのでは無いかと思えるくらいの迫力だった。すると


「呪ってやる...」


ガシッと画面を掴む、そして...


「私を...」


彼女の姿が画面から現れたのだった。

あれ?いつからうちって3D対応ハイレゾTVに変えたんだっけ?まぁいいや。あのアホ兄貴がどっかで買ったか貰ったかしたんだろう。


「こ...ろして...やる」


画面から這い出る彼女、傾くテレビ。俺はとっさに立ち上がると画面の端を押さえた。


「危ない、危ない...3Dテレビは高いんだから壊したらもったいない...」


「こ......ろ......す......」


とそこで


パチン。


リビングの明かりがついた。


「暗闇でテレビなんか見てると目が悪くなるぞ」


肩にタオルを掛け、タンクトップに短パン姿の兄貴が現れたのだった。

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