前夜

決意さえ固まれば、

行動するのは簡単だった。



私はタカユキに、

超が付くレベルの長文を送りつけた。



その中で



『やっぱり私たちは上手くいかないんだと思う。

 甘ったれでごめん』



そう伝え、

彼のアカウントをブロックし、

ブロックリストからも削除した。



同時に、電話番号もメアドも

着歴もメールの履歴も消して、

一方的にタカユキとの関係を絶った。



着拒まではしなかったけれど、

その後タカユキから連絡がくることはなくて。



余りの呆気なさに、

今までタカユキを好きだと思っていた気持ちは、

夢だったんじゃないかと思えた。




ただ、このことをしゅんくんに

伝えて良いものか…悩んだ。




一回振っておいて、

他の男と上手くいかなかったから

やっぱり付き合いたい。



そんなこと、言えないし言いたくない。

しゅんくんが本当に私を

友だちだと見なしているなら…

今度は私が、努力する番。



駆け引きとかヘタな同情で気を引くのではなく、

純粋に惚れてもらえるよう私が頑張る番だ。




暫くしてしゅんくんと会った時、

私は体調不良を気にかけてくれたお礼を言い、

タカユキとの顛末を伝えた。



「上手くいってる?」

と聞かれてしまい、

黙っていられなくなったのだ。




「ごめん……嬉しい」




冬子さん、嫌な想いしたんだろうけど。

そう前置きしながらも、

彼は紛れもなくニヤついていた。



「笑ってやって(笑)。

 クリスマスの予定も白紙だよー」



本当はもっと素直に、

しゅんくんとクリスマスを…と言いたかったけど、

やっぱりこれもこれで

都合良すぎだよなと思って

遠回しな言い方をしてしまう。




するとしゅんくんも、意外な返答をしてくる。




「あ、俺も白紙になったよ」


「あれ? 大阪は?」


「一緒にいく奴…翔って言うんだけど、

 翔の彼女からNG出た」


「確かに、彼氏とクリスマス

 過ごせない理由が競艇って、

 なかなか許せないと思う(笑)」



「じゃ、冬子さん俺と過ごしてくれる?」



当然私は首を縦に振り、

二週間後にまで迫ったクリスマスが

本当に楽しみで仕方なかった。



しゅんくんのシフトと私の元々の予定を鑑みて、

私たちは24日の夜遅くから

しゅんくんの地元で会うことに決めた。



しゅんくんの家に呼ばれたのは、初めてだった。



当時の私は、イブよりも

クリスマス当日に意味があると思っていたけど、

しゅんくんはイブからクリスマスに変わる瞬間が

一番盛り上がるものだよと教えてくれたっけ。




「本気でもてなすから、楽しみにしてて」




ケーキもチキンも用意するし、ご飯も作ってあげると

しゅんくんはキラキラした笑顔を浮かべていた。



24日を待つ間も、

私たちは飲んだりセックスしたり

割と頻繁に遊んでいたと思う。

たまにだけど、

ふざけたあだ名でで呼び合うようになった。



バイトの合間を縫って

クリスマスデート用の服も買いに行ったし、

しゅんくんへのプレゼントも当然用意した。



恋人とクリスマスを過ごしたことは

今までも何度かあったけど、

こんなにも楽しみで

ドキドキしまくったのは間違いなく初めてだった。




…でも、

私は決して彼女ではない。




浮かれてはいたけれど、

あくまで自分はセフレなんだと

必死に言い聞かせる部分もあった。






そして迎えたクリスマスイブ。

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春夏秋冬 en. @tdn_tmr

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