葛藤1

翌日、私たちはこの前のように

すんなり解散した。



一人になっても余韻が残っていて、

思い出しては恥ずかしいような

嬉しいような、妙な感覚に陥る。



…セフレ相手に何やってんだ。



そう思ったのは確かだし、

タカユキのことも忘れてはいない。



再会の日以降、

タカユキとはLINEばかりしている。



何気ない日常を伝えるだけでなく、

時には恋人同士みたいな言葉を

送り合うこともあった。



“付き合おう”とは言わなかったけど、

それに近い雰囲気は

きっとお互い感じていたと思う。

1ヵ月以上先のクリスマスも、

二人で過ごそうと話していた。




しかし、それと並行して

しゅんくんとの距離も

確実に縮まっていた。




連絡無精だったしゅんくんは、

あの日を境にマメになった。

そして、セックスをするだけでなく

飲みに行く機会も増えた。



そこで趣味の話や互いの過去、

時には恋愛観なんかも話したっけ。



その中で私は、

“恋は分担制”

という自論を展開した。




内容は至ってシンプル。




ときめき担当

ご飯担当

癒し担当

セックス担当

暇潰し担当



各項目に、

それぞれ一番ふさわしい相手を

宛がうだけ。



相手には、

その役割だけを果たしてもらう。

それ以上は求めないし、

要求もさせない。



一人の男で全部を満たそうとするから

うまくいかないんだと、考えた結果だった。



ただ、そうは言いながらも

全てを包括するような相手が居たら…

そういう人こそ"運命"なんだろうなんて、

甘ったるいことも考えていた。



女友達にすら話したことのない

生意気な恋愛観を、

しゅんくんは嫌な顔一つせず聞いてくれた。



「いろんなこと割り切りすぎだよ。

 冬子さん本当に年下?(笑)」



しゅんくんは笑いながら言うけど、

私の心は少し複雑で。



私は物分かりが良くて

多くを求めすぎない、

面倒くさくない女に見られたい。

ただそれだけの理由から、

冷めた自分を演じているに過ぎないのだ。



茶化されながらも、

見透かされてるような気がした。

本当だったら、異性相手に

こんな話すらしたくなかったのに。



もちろん、タカユキには言ってない。

だったら何故、しゅんくんには

話せてしまったんだろう。



痛々しい私とは裏腹に、しゅんくんは

「じゃあ俺は何担当ー?」

なんて面倒なことは、一切聞いてこなかった。



尋ねられたところで

私だって、上手く答えられないけど。



変態的な性癖と

忠犬と呼びたくなるほどの従順ぶりから、

「ペット枠だなー」と思っていたのに…




タカユキのことを

忘れてしまいそうなくらい――

しゅんくんのことで頭がいっぱいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る