浴室2

今更と言えば今更だけど、

裸を見られたくなくて

私は先に浴室へ向かった。



ちょうどよく

溜まったお湯をとめ、

ゆっくり浸かる。

…あったかくて気持ちいい。



和んでいるうちに

腰にタオルを巻いた

しゅんくんが入ってきた。



「俺、人と入るのすごく好き。

 冬子さん、ありがとう」



膝を抱える私のとなりに

しゅんくんは腰を据えた。

ふにゃっとした笑顔を浮かべながら。



しゅんくんは何事もなさそうだけど、

私は気恥ずかしいし落ち着かない。

目のやり場も

手のやり場も分からない。



いろんなものが

見えそうで見えない。

それもなんだか照れてしまう。



でも、しゅんくんの言ったことは

分かる気がした。





「私、ふゆこじゃないよ」




そんな伝えるつもりのなかった

言葉まで、口を突いて出た。



「え、うそ!

 もしかして偽名? なんで…」


「半分は嘘じゃない。

 冬子って書いて“とうこ”」




そう口にした時、

不意に腕を引かれ、ちゅっとキスされた。




「ビビったー(笑)

 でも、大事なこと教えてくれてうれしい」




至近距離で囁かれたあと、

またキスされる。

「しゅんくんが読み間違っただけ…」

と言おうとしたら、再び口を塞がれる。




「とーこさん、


 こっち向いて俺の上のって」




いつもなら、主導権は私。

だけどのぼせた頭では思考が

追いつかず、言われるがまま

しゅんくんの肩に手をついて

ゆっくり腰をおろしていた。



否が応でも向き合う形になり、

恥ずかしさがこみ上げる。



いつもなら、

私がしゅんくんに恥ずかしいこと

させてたのに。



明るい浴室で密着した身体。

なんだかいつもとは違う

しゅんくんの空気感。




その全てにやたらと

ドキドキしてしまう。




「とーこさん」




名前を呼ばれ、

ぎゅっと抱きしめられた。

首筋や胸元に落とされるキスが

くすぐったいのに気持ち良い。



しゅんくんが急に、

セフレとかMなペットとか

そういうのじゃなくて…

一人の男の人として

愛しいような気がしてくる。




――こんなの想定外だ。

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