歯車






「またね」






なんて言っておきながら、

私はあの日以来

しゅんくんに連絡をしなかった。



距離を置こうと決めたのだ。



簡単には嫌いに

なれそうにないから、

せめて嘘をつかれてたことに対して

何も感じなくなるまでは。



今の状態でまた会っても、

ふとした瞬間に

「なんで嘘ついてたの?」なんて

面倒なことを口走りそうだから。



嘘が嫌いなのは、あくまで私。

それをしゅんくんにまで

押し付けるのは、ナンセンスだ。

頭ではそう分かっている。




そこで私は再び、

あの出会い系サイトに手を出した。

他の男と遊べば

しゅんくんのことなんて

気にならなくなると思って。



そして、ユキと名乗る男と

仲良くなった。



程よいテンションに

程よい下ネタ。

だけど、会うことや

セックスが目的ではなかった。



時たま冗談混じりに

「会ってみたいねー」

なんて言っていたら、

それは不意に実現してしまう。




9月の終わり。

ユキから『暇だー』と

メールがきたとき、

私はバイトあがりで新宿にいた。



それを伝えたら、

ユキも新宿にいることが判明。

せっかくだから会っちゃうー?

となって、東口で待ち合わせた。



一年くらい前に

しゅんくんともここで

待ち合わせしたなぁ…

なんて、物思いに耽る。



暫くすると、ユキから電話番号を

知らせるメールが届いた。

近くにいるんだろうと思い、

返信もせずにコールする。




「…もしもし?」




電話に出たユキの声は

想像よりも低く、

優しい喋り方をしていた。



「ユッキーやっほー

 今どこ? 私交番の前の…」



言い終わらないうちに、

私は彼の姿を見つけてしまった。




「え…」




目の前に立つ、

長めの茶髪に黒縁の眼鏡をかけた彼も、

きっと同じことを考えていただろう。






「久しぶり、とーこ」






今日が初対面のはずなのに、

私たちは

互いのことを知っている。

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