氷点

久しぶりに会ったしゅんくんは、

更に顎のラインが

シャープになっていた。

細身と言うよりガリガリ。



そんな彼を見て、

ホテルではなく居酒屋に誘う。



「元気だった?

 けっこう心配してたよ」



乾杯のあとにそう切り出すと、

彼は申し訳なさそうに

ごめんなさい…と答えた。



「仕事?」


「ううん、俺バイトだし」


「病気?」


「それも違う…から、安心してください」



確かに安心はできたけど、

何があったかは

聞いてはいけないらしい。



そんな私の空気を察したのか、

しゅんくんがぽつりとつぶやいた。






「彼女と…別れた」






え?


そんなの…初耳だった。






聞いてないとか

教えてって言ったよねとか

そんなことで今更

問い詰める気もない、けど。



隠されていたことに、

嘘をつかれていたという事実に

面食らってしまう。



「言ってくれたら良かったのに」



私が吐き出したその言葉は、

別れたことではなく

彼女の存在を教えて欲しかった。

そんな風にも

取れたかもしれない。



「ごめんなさい…。

 言ったら嫌われると思った」


「…嘘つきは、もっと苦手だよ」



柔らかく言ったつもりだったけど、

しゅんくんは動揺していた。



そんな姿を可愛いと思う反面、

脳みその一部が酷く

冷え切っているのも分かる。



しゅんくんの話はこうだった。



彼女さんとは、

そこそこ長い付き合いだったけど

関係は冷え切っていたらしい。



そんな彼女と年明けに

飲みに行って大げんか。

原因は、酔っ払って

気が大きくなったしゅんくんが、

別れると口走ってしまったから。



彼は酔った勢いのつもりだったけど、

向こうはそうではなくて。

「分かった」と言って

出て行ってしまったらしい。



その後何度も謝罪をしたが、

彼女は結局、しゅんくんが告げた

別れを受け入れてしまった。



それに凹んでいた上に

留年していた大学の

卒業試験だか論文だかが重なってしまい、

連絡ができなかったと。



もともと

連絡がマメなタイプではないことも

付け加えられた。



私は、セフレに恋人がいたところで

気にする方ではない。

だから彼の話を聞いても、

それ以上の衝撃は受けなかった。



結局は、

「内緒にされていた」という

事実だけが引っかかるのだった。



そして思う。



好きになりすぎる前に

分かって良かった…と。



「大学生だったんだね」


「…やっと卒業できました。

 でも、そうじゃなくて…」


「酒癖悪いって意外」


「冬子さんには

 嫌われたくないから…がんばってました」


「まあ、落ち着いたなら良かったよー」



そう言うと私は店員を呼び、

チェックと伝える。

「帰りますか…?」と

尋ねたしゅんくんに、笑顔で答えた。






「うん、またね」





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