逃避



しゅんくんのこと好きだなー



なんて思いながら、

その頃の私には

縁を切りきれない元彼がいた。

ろくに仕事をしない、DV癖のある男。



何度も殴られていたのに、

寂しさや変な情から

懲りずに連絡を取ってしまい、

「もう傷付けない」という

よくあるセリフにほだされ、

何度目かの半同棲状態になっていた。



ただでさえ忙しい仕事と

もはや好きなのかどうかも

よく分からない元彼。

結局怒鳴られ、

殴られることもあった。



そんなとき私は、

懲りもせず男に逃げてしまう。



だからあの時

あのサイトを開いたのは、

単なる暇潰しだけではなくて。

現実逃避の要素も

多分にあったんだと思う。



そして、今度は

しゅんくんと会えない寂しさ…

みたいなものを、

別の誰かで埋めようとする。



しゅんくんと同じタイミングで

メールを送ってきた他の男とも、

会うことになった。

彼は伊織と名乗った。



しゅんくんに初めて会ったのが

11月上旬で、

伊織と初めて会ったのは

11月半ばか下旬。



伊織とは、ゆるーく

メールのやり取りだけ続けていた。



伊織との初対面。

爬虫類顔の彼は、

抜群に私好みだった。



無口だったけど居心地は良くて、

しゅんくんにすら話さなかった

元彼のことまで喋ってしまった。



そしたら伊織は、

「俺が冬子のこと守る」

なんて言ってくれた。

本当に助けられた日もあった。



毎度毎度単純だけど、

私の中でしゅんくんの存在が

小さくなった分、

伊織への想いが膨らんだ。



その間、しゅんくんとは会ってないどころか

メールすらほとんどしていなかった。

そのおかげで、

「しゅんくんはセフレ」と、

ちゃんと割り切ることができた。



12月半ば、好きな人ができたと

元彼に伝えた私は、

顔がアンパンマンみたく

なるまで殴られ、

警察を呼んで奴と離れた。



そして、顔の腫れ上がった私を

迎えにきた伊織は

私を抱きしめながら泣いた。



心配をかけて申し訳ないと

思う反面、それが嬉しくて。

私と伊織はどちらからともなく

付き合おうと言い、頷いた。




彼氏ができると、

自然とセフレたちとは

会わなくなった。



私は一途に伊織だけを

想うようになっていた。

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